暗愚楽月報
The Underground Disc Review
第69号

年は越せるが繰り越せないと
沢サンタめてた預貯金はたき
予算ギリギリ 見ごトナカイ物
こと師走でにウン百枚

Editer's Note

今月の金賞(D'OR)


★★★★★
Florent Schmitt "Antoine et Cléopâtre / Mirages" (Timpani : 1C1133)
Jacques Mercier (cond) Orchestre National de Lorraine
ロレーヌ管とのコンビは定着する模様のメルシエさん。ピエルネに続いて,今度はシュミット中期の傑作二品を録音してくれました。コンビの初シュミットで,選んできたのが『アントニウスとクレオパトラ』(作品69)。随分以前に『サランボー』を吹き込んだ前科は伊達ではなく,仏近代を愛する全てのファンが何を望んでいるか,実に良く心得ている。元々舞踏家ルビンシュタインの委嘱で舞台音楽として書かれた同曲は,作曲者の手で2部6曲からなる組曲版へと改作。本盤に収められたのはこの組曲版。管見の限り,恐らくCDになるのは初めてでしょう。とはいえ,併録された『幻影』(作品70)執筆当時のシュミットといえば,まさに創作活動のピークだった時期。それだけに,中身はこれまで録音されなかったのが嘘のように濃密。官能的な和声に包まれた協奏的交響曲の蠢動と,サロメの悲劇の恍惚感。シュミット節全開と申せましょう。併録された『幻影』は,ピアノ版ならオグドンやワグシャルの優秀録音もある代表曲。しかし,作曲者自身が三年後に配置した管弦楽版は,恐らく本盤くらいしか入手可能な吹き込みはないのでは。個人的にはブルターニュ管と並ぶ信頼のオケ,ロレーヌ管の演奏は,曲想とマッチした指揮者のタクトともども優秀。シュミットの豊富なカタログ中でも,極めてお薦め度の高い録音かと思います。






Recommends


E.J. Moeran "Sinfonietta / Symphony in G Minor / Overture for a Masque" (Lyrita : SRCD.247)
Sir Adrian Boult (cond) London Philharmonic Orchestra : New Philharmonia Orchestra
一時,鬼神の如くボールトや自作自演による英国近代ものをCD化。たちまち息切れして昇天し,ぱったりと消息を絶ったリリタ社。最近どういうわけかCD屋にぞろぞろと雁首を揃えて再登場,息を吹き返していました。どうやら,同社の版権はいつの間にか,かのニンバス社を傘下に収めたウィアストーン財団(Wyastone Estate Limited)に渡っていた模様。2006年に同社と交わした出版契約により,今後130に及ぶリリタ音源が,全てCDで再プレスされるんだそうな。すげ〜。かのエイドリアン・ボールトが英国近代ものを大挙振った良き理解者だったのは知られるところですが,その音源の多くをリリタが録っていたため,CDで聴かれる機会が大幅に制約を受けておりました。まさか彼の振ったモーランやアイアランドを聴けるとは,夢にも思いませんでした。本盤はモーラン管弦楽の中でも屈指の名品『交響曲ト短調』を収めたボールト70年代の吹き込み。彼を讃美してやまない弟子筋のハンドレーが素晴らしい録音を残している演目を,お師匠さまがどう振るのか,興味津々で購入してみた次第です。一聴,輪郭線を柔らかく滲ませ,まろやかに処方するハンドレー録音に対し,ボールトの指揮はかっちりと明晰。極めて見通し良く,実直さに富んでいる。曲構造をかっちりと捉え,丁寧に再現前する緻密な指揮振りでいながら,分析的な硬さを感じさせない,枯淡の佇まいはさすがにボールト。心配していた録音も驚くほど良く,オケも当時としては非常に良く鳴っていると思います。個人的にはハンドレーの艶っぽい指揮のほうが好きなんですけど,オーソドックスなのは俄然こちらでしょう。初めてモーランを聴く方は,ハンドレー盤よりこちらのほうが良いのかも知れません。唯一残念なのは,この一連の再プレスがCD-Rベースなこと。再建中で経費がキツイとか?我々はいわばシェアウェアを買わされてるようなもんでしょうかねえ。★★★★☆
André Caplet et ses Contemporains "Divertissements / Conte Fantastique / Deux Sonnets (Caplet) Danses (Debussy) Ballade Fantastique (Renié) Andante et Scherzo (Schmitt) Impressions d'Automne (Caplet)" (Ambroisie : AMB9978)
Sandrine Chatron (hrp) Cécile Bonnet (sop) Axel Salles (b) Christian Wirth (sax) Eric Speller (ob) Jérôme Voisin, Myriam Carrier (cl) Stéphane Coutaz (bssn) Ophélie Gaillard (vc) Julien Bret (org) Quatuor Elias
滅多に日の当たらないカプレを,彼と親交のあったドビュッシー,シュミット,ルニエと折半しつつ解題する本盤。注目は掉尾に収められた世界初録音『秋の印象』でしょう。折半ものにもかかわらず,僅か一曲のお色気でカプレ好きの財布の紐を緩める手管。まさしくキャバ嬢並み。1905年のこの作品は,3年前に書かれた『ペルシャ組曲』を彷彿とさせる吹奏楽とオルガン,ハープのための小品で,耳当たりも大変穏健。編成がちと難しいとはいえ,木管アンサンブルの方々がレパートリーに加えたら,演奏会に彩を添えることになるのでは。ハープを弾くサンドリーヌ・シャトロンは1974年生まれの仏人女流。仏国営放送の選抜オケ,アンタルコンタンポランのメンバーでもあるブレーズのお気に入りです。パリ高等音大でマリー・クレール・ジャメ,フレデリーク・キャンブレリングに師事し,ペヌティエやチッコリーニにも学んで一等を得て卒業。1998年にシャルパンティエ・コンクールで優勝した実績をお持ちです。王立ノーザン・カレッジ音大の面々で結成されたエリアス四重奏団は2003年のロンドン国際弦楽四重奏コンクールで二位になったらしいアンサンブル。少しキコついていたり,ピッチが揺れ気味なところはあるものの,高技量。1923年の弦楽四重奏版『幻想的な物語』では,良く協調して主役を上手に盛り立て,ドビュッシーともどもクライマックスを作ります。それだけに惜しかったのは,ソプラノのセシール・ボネ女史。声質そのものはかなり美声ながら,コントロールが甘く,喉に締まりがない。ヴィルジニー・ポション女史の名唱に比べると見劣りしてしまいます。★★★★☆
Leo Brouwer "Concierto Elegiaco / Tres Danzas Concertantes / Quintet" (Fuga Libera : FUG524)
Philippe Gérard (cond) Denis Sung-Hô (g) Quatuor Alfama : Chapelle Musicale de Tournai
ギター曲の人,というイメージが強いため,独奏曲の作品集ばかりがCDになるブローウェル。久しぶりに伴奏の付いた作品集が出ました。過去に前衛作家だったブローウェルの場合,未知の作品に手を出すのは勇気が要ります。しかし,評価されたのは後年なんでしょうか。本盤に収められた作品も,穏健な色彩モード音楽への転向後。『エレジー調』の枕詞も伊達ではなく,ギターの奏でる旋律は,ルムランのギター曲集かと見紛うほど伏し目がち。これ見よがしなアフロ=キューバンやラテン臭はほとんどありません。伴奏譜のルムラン風味も健在。繊細で感傷的な和声が涼しげな風を送り込み,実に心地良い。ブローウェル入門の一枚と言われて,ジョン・ウィリアムスの『黒のデカメロン』を推す気持ちは今も変わりませんが,同盤がお気に召した方なら,問題なく本盤も聴けることでしょう。布袋寅泰と高倉健を足して二で割ったようなお顔の独奏者は,ソウル出身の韓国人。エコール・ノルマルに留学し,アルベルト・ポンセ,オデール・アッサードに師事。その後ベルギーでも研鑽を積んだとか。エコー賞(欧州歌劇場協会賞)を貰ったりしてはいるものの,国際的な受賞経験は乏しい様子。パッセージが速く細かくなると,微妙に粗が出てしまう。ジョン・ウィリアムスほどの粒立ちと自在さが感じられないのは,残念といえばそうでしょう。しかし,怖ろしく難しい譜面を前に,過度な正確さを求めるのは酷。トゥルネ室内楽団なる無名のオーケストラも,決して一流とは言えないまでも意外にキメの揃った伴奏で,精妙な作曲者の和声を的確に現前。ベルギーで独奏者と仲良くなったらしい弦楽四重奏団も,音色こそ些か垢抜けしないながらピッチは正確。音色も味よと笑って過ごせるのも,熱の籠もった好演だからでしょう。全体に演奏のレベルは高めで,充分に楽しめると思います。★★★★☆
Philippe Gaubert "Complete Works for Flute and Piano" (Brilliant : 8530)
Susan Milan (fl) Ian Brown (p)
最近,フルート奏者の演奏会で,時折箸休めとして見かけるようになり,「随分時代も変わったな」と思わずにはおれないのがゴベール。ドビュッシーに初期ロマン派的典雅さを加え,ぐっと聴きやすくしたような彼の筆致は,最大公約数的なフランス近代の魅力を分かりやすく伝えるという点で,実のところなかなか良い素材なのかも知れません。ただその割に,全集としてまとまった録音で,あまりいいものに出くわしたことがありませんでした。本盤でソロを取るスーザン・ミラン女史は1947年生まれ。1963年に王立音楽大学に進み,1968年にボーンマス響首席フルート奏者,1974年には女性で初めてロイヤル・フィルの首席フルート奏者になった人物。その後,1983年からは王立音楽大学フルート科の教授になりました。こんな大物に相手にしてもらえるとは。フルートのみの人気であったとしても,ゴベールは本望でしょう。何ぶんにもお年ですので,音色そのものは少しハスキーな棘が加わり,唇の年輪が乗ってしまう感は無きにしもあらず。それでも,さすがは英国フルート界の女首領。運指技術的といい曲解釈のナチュラルさといい,水を得た魚のように見事です。もとは1992年に出たシャンドス盤がオリジナルの音源。それに目を付け,いつも通りさっさと廉価盤化するブリリアントは目の付け所が違う。相変わらず目利き優秀なバイヤーのお陰で,ゴベールのフルート曲全集としては目下,管見の限り最上の演奏が,たかだか2千円そこらで買えてしまいます。伴奏はナッシュ・アンサンブルで要を得た助演を披露する伴奏名人イアン・ブラウン。こちらも丸くていいタッチです。★★★★☆
Darius Milhaud "Le Boeuf sur le Toit / La Création du Monde / Concerto pour Harpe" (Erato : 2292-45820-2)
Kent Nagano (cond) Frédérique Cambreling (hrp) Orchestre de l'Opéra de Lyon
買っても買っても一向にカタログが埋まらない,驚異の多作家ミヨー。大作にもまだまだ隠れた名品があるようです。ありがちな『屋根の上の雄牛』と『世界の創造』に,あまりお見かけしない『ハープ協奏曲』を抱き合わせ,一曲で動くマニアをも購買層に取り込むホスト並みの手管。リヨン歌劇場と蜜月の,ご存じケント・ナガノさんが1992年に吹き込んだ,心憎いミヨー録音です。久しぶりに真面目に聴いた気がする『屋根の上の雄牛』。一聴,初期ミヨーらしく,人を喰った復調と道化師リズムが目立つこの作品。しかし,よくよく聴くと,合間合間に悲哀の篭もったユダヤ風の旋律が差し挟まれ,実は結構嘆き節。今さらながら,ミヨーがユダヤ人作曲家だった事実を再認識させられる。第1幕で露骨にブルースが現れる『世界の創造』が,新世界アメリカに夢を馳せた彼の心模様とすれば,本盤は多面的な作曲家ミヨーの変遷を巧みに要約し,その実像の一側面を切り取ることに成功しているのかも知れませんですねえ。となると,そこで取り漏らされているのは後期ミヨー一流のロマンティックな田舎情緒。あっしを含め,この部分を好むファンにとって,関心は「オレにお土産はないのか」の一点のみです。ナガノさんは『ハープ協奏曲』で見事,それに応えてくれている。プロヴァンスの午後,涼風が爽やかに薫る第一楽章の情緒は,アルカイックなハープの響きと相俟って実に典雅。交響曲第六番の「カルム・エ・テンドル」や『協奏的二重奏曲』を思わせる趣味の良さ。こんな曲を書くから,いくら多作でもついまた彼のCDを買ってしまうのです。演奏も良好。けっこう金太郎飴の作曲家なのに,名だたるオケがどんどんCDを出してくれる彼は,本当に幸せだなあと思ってしまいます。★★★★☆
Théodore Dubois "Quatuor en La Mineur / Quintette" (Atma : ACD2 2385)
Anne Robert (vln) Paul Marleyn (vc) Stéphane Lemelin (p) Jean-Luc Plourde (vla) Philippe Magnan (ob)
それぞれピン芸人だと,微妙に間の持たない三人が,たのきん化すると見事に調和し,寿司食いねえ状態。それがケベック州の近代フェチ集団トリオ・オシュラーガです。ルネ=バトンの三重奏曲集で好事家の目を点にした彼らは,どうやら確信犯的にマイナー漁りを是とすることに決めた模様。今日では,ドビュッシーと微妙な関係にあった楽壇元老院の一人としてしか認知されていないであろうテオドール・デュボワをとりあげ,室内楽曲を二枚のCDに分売する酔狂をやってのけました。神童としてローマ大賞を受賞。フランクがオルガン奏者だった当時は仲良くクロチルド聖堂の合唱指揮者となり,サン=サーンスの後任としてマドレーヌ聖堂のオルガン奏者もやった彼の音楽は,敬愛するサン=サーンスの流れを汲む模範的かつ保守的な仏後期ロマン派。フランクやフォーレ側の谷筋へと下り落ちる,より官能的で流麗な保守派とは一線を画し,ドイツ・ロマン派的なピアノ譜と教条的なリズム処理で,良家の子女よろしく貞淑な色気を放つ。フランク辺りを分水嶺に,それより古臭くなると耳が拒否反応を示してしまうクラシックの障害児ことあっしの耳には,デュボワ作品における伴奏譜の和声の貧困は正直,辛い。転調の頻度こそ増えているものの,フォーレやフランクのような調性のゆらぎが感じられない「健全な」ロマン派書法にも,危うさの点で食い足りないものは残ります。それでも,個人的な好みの問題を度外視すれば,品位高く折り目正しい保守系フランス後期ロマン派の佳品として,充分に魅力的な作品ではないかと思います。注意深く聴くと,やっぱりピッチが怪しいヴァイオリンを筆頭に,個人技には不安要素も見え隠れするソリストたちは,小さな力を上手く力を合わせ,和算以上の合奏を披露。演奏は品位高く,作品の魅力を良く伝えていると思います。★★★★
William Alwyn "Concerto Grosso No.2 / Autumn Legend / Concerto for Harp and Strings" (Lyrita : SRCD.230)
William Alwyn (cond) Osian Ellis (hrp) Geoffrey Browne (e-hrn) London Philharmonic Orchestra
ウィリアム・オルウィンは1905年ノーザンプトン生まれのイギリス人。15才で王立音楽大学に進み,1926年から1955年まで母校の作曲法科教授を務めました。ロンドン響の首席フルート奏者に任命されるほど演奏家としても腕が良く,画家の才能もあったようです。本盤は,版権譲渡で息を吹き返した英国の老舗リリタから出た復刻CD-Rで,弦楽オーケストラ(とソロ楽器)のために書かれた三品を併録。死を六年後に控えた晩年の作曲者による自作自演集の一枚です。ちゃんと聴くのは初めてな彼の書法は,形式的には英国ポスト・ロマン派のトーン・ポエマー。ただし,同時代のポスト・ロマン派英国作家たちの書く,ノーブルで感傷的な旋律に比べると,オルウィンのそれはモード感が強く,転調表現も不穏。節回しは掴み所に乏しく玄人好み。循環もしないので,曲全体として残る印象は,どうしてもやや散漫になってしまいます。窓際の係長補佐タイプで,お世辞にも評価されやすいとはいえないでしょう。その職人芸的な筆致を「オリジナリティがあって面白い」と聴くか,「勤勉に小さな仕事を積みあげるけれど,一発のホームランで心を掴みとる才気や魅力には乏しい」と聴くかで,評価は大きく分かれるのでは。もう少しキャッチーな主題を書く努力をすれば,フィンジやウォルトン,バックスらに続く再評価の対象になれたんでしょうが・・。好意的に言えば,小さいパッチワークから一曲を丁寧に編み上げるその慎ましやかな筆致を堅持し,安易な迎合をしなかったところに,彼なりの自己主張があったんでしょうねえ。演奏するは名門ロンドン・フィル。1979年の録音では,オケの細部も今ほど精度が高いとはいえない。それでも,掴み所の乏しいその作品を,どう読み解けばスムースな流れが生まれるのかを知るうえで,この自作自演の価値は少なくないでしょう。★★★★
Heitor Villa-Lobos "Symphony No.3 Symphony No.9" (CPO : 999 712-2)
Carl St.Clair (cond) SWR adio-Sinfonieorchester Stuttgart
CPOの肝煎りで,シュトゥットガルト放送響がひと頃入れあげていたらしいヴィラ・ロボスの交響曲全集。ひょっとして箱盤あり?と思いつつ,安かったので購入してみました。小編成の作品に地雷原もある作曲家ですが,管弦楽やピアノ曲でのこの人の筆運びはさすがパリ仕込み。すとらびん好きのする蠢動を,ブラジル風味でてんこ盛りにしながらも,全編に盛られるごってりとした濃密和声の煌びやかさでぐいぐいと聴き手を牽引する。交響曲においてもこの傾向は変わりませんでした。後年,復古主義的傾向が強まったのか,1952年作の第九番は威風堂々とした新古典書法。少しオネゲル(の喜びの歌)っぽい形式感が。一方,1919年作曲の第三番はよりラヴェルやイベール色が強く,パリ風味。さすがの健筆で大いに溜飲を下げました。これだけ良い曲を書いているのに,まとまった交響曲集を残してるのは,落ち穂拾い大好きなこのオケくらいしか見あたらない。一体どうしてなんでしょうか。そして,願ったり叶ったりの本盤にミソをつけてしまうのも,何を隠そうこの楽団。特に弦部の性能ときたら半世紀前の水準で,アーティキュレーションもピッチも緩め。おかげで白黒時代のハリウッド映画みたいにバタバタした響きになっちゃってます。ひょっとすると私はこのオケを過大に評価していたのかも知れません。指揮を担当するセントクレア氏はテキサス州出身の米国人。アン・アーバー響の首席やボストン響の助演を担当するも,国際的には無名。結果で評価すべきとはいえ,実績がそのまま出ている印象は拭えません。喩えるなら,「練習嫌い」のキャラがそのままムラのある演奏に乗ってしまう,ハンス・グラーフのデュティーユ録音と同じ臭いがする。ケクランの管弦楽作品集でのあの頑張りは,ひょっとすると強面の大指揮者ホリガーの睨みがブレーズ効果を発揮していたからかも・・と思ったり。難しいもんですねえ。★★★★
"Sonata da Camera (Pierné) 2 Rhapsodies / 5 Songs (Loeffler) Prélude, Récitatif et Variation (Duruflé)" (ASV : CD DCA 1139)
William Dazeley (btn) Conchord: Emily Pailthope (ob) Daniel Pailhope (fl) Julian Milford (p) Douglas Paterson (vla) Bridget MacRae (vc)
イギリスとカナダの演奏家が集まって,何故かくも酔狂なCDを作る気になったのか。仔細は分からぬものの,オタ泣かせの珍品を並べた本盤は2002年の発売。ピエルネの三重奏は1927年。擬古典的な典雅さと適度な近代和声が好ましく和合した筆致は,すでに指揮者の余芸を遠く超えた境地に達している。ロクな演奏を聴かなかったデュリフレの重々しく荘厳な三重奏は,チェロ版ながらヴィオラで奏されたラーセン盤やニュージャージー室内アンサンブル盤より二枚くらい格上。やっと聴くに堪える演奏でこの曲を聴けました。演奏するはコンコードなるアンサンブル。2002年にロンドン界隈のオケ団員が集まって作った室内楽団で,正式にはロンドン・コンコード・アンサンブルというそうな。つまり本盤はほとんどデビュー録音。それでこの選曲とは畏れ入る。アカデミー室内のヴィオラ,ヨーヨーマの弟子でモントリオール・デビュー及びカナダ音楽の両コンペで入賞したチェロ,英国立歌劇場の首席フルート,ジレット国際入賞のオーボエ,オックスフォード,ギルドホールの両音楽大学を出たピアノと,室内楽要員としてはなるほど上の部。個々人の技量を聴くと,フルートは少し音が掠れ,ピアノは速いパッセージで音符摩滅。ソリスト級には届かないかも知れないながら,慧眼も頷ける好演奏。4つ星は少し厳しいかも知れない。レフラーで出てくるバリトンが声量不足なうえ喉締めすぎでヨレており,少なからぬ格落ち感を漂わせていること,既にこれらの曲はみな他盤で聴けること,以上二点を多めにとって,低めの評価になったことをお断りしておきましょう。★★★★
Claude Debussy "Prélude a l'après-Midi d'un Faune / Nocturnes / La Mer / Berceuse Héroïque" (Telarc : CD-80617)
Paavo Järvi (cond) Cincinnati Symphony Orchestra : May Festival Chorus
「ニストレムの管弦楽を,故国のオケと盛んに入れていた世襲議員」のイメージから,久しく脳内データを更新していなかったパーヴォ・ヤルヴィさん。2001年9月から,ロペス=コボスの後任としてシンシナティ響の第12代音楽監督に就任してたそうな。これで箔がついたのは間違いなく,2006年にはフランクフルト放送の音楽監督ポストも獲得。エストニア放送を振ったシベリウス録音はグラミー賞を,ブレーメン放送を振ったベーやん録音では,シャルプラッテン賞を獲るまでになりました。王道ものを振って録音できるご身分になれば,教養としてラヴェルとドビュッ氏録音は避けて通れない,ということで2005年に出たのが本盤。教科書通りに,ドビュッシーのカッコ付き印象主義三部作を並べての吹き込みとなりました。共感よりも教養として振ったドビュッシー・・というのが,そのまま本盤の聴後感でしょうか。遅めのテンポで,良く譜面を読み,どこで拍を伸ばすかを熟考した演奏。そんな中,おまけ半分で併録された『英雄的な子守歌』の出来が出色というのは面白い。速めのテンポがメリハリとなって民謡風の情緒を生み,独自の世界を作っている。あまり吹き込みのない管弦楽版の代表的な秀演のひとつと言って良いレベルに到達しているのでは。確かに,計算のうえで現前された指揮には,マルティノン的なあざとさも。しかし癖や破綻は少なく,時折ちぐはぐな解釈はあれ,総じてバランス良くまとまっている。いかにも現代の指揮者らしい「負けない横綱」タイプの演奏流儀です。SACDにまでするテラークの録音オタぶりも全開で,集音も大変クリア。初めてドビュッシーを買う人にも勧めやすい。惜しむらくは,シンシナティ響の力量が,ヤルヴィの細かい目配りを十全にまでは現前しきれなかった点と,耳馴染みのない女声合唱団のややくたびれたお声ですか。ここまで求めるのは,贅沢なのかも知れませんけどねえ。★★★★



Other Discs

Joaquín Rodrigo "Adagio / Homenaje a Sagunto / Pasodoble para Paco Alcalde / Homenaje a La Tempranica / Per la Flor del Iliri Blau" (Radiotelevision Española : 65153)
Enrique García Asensio (cond) Banda Sinfónica Municipal de Madrid
『アランフェス協奏曲』のみで認知されているロドリーゴさんの,どういうわけか吹奏楽に注目した奇特なCDです。ロドリーゴはギター曲だけが有名で,吹奏楽なんてまず注目されることはありません。版元を焚きつけ,その死からわずか二年でこんな落ち穂拾いをしてのけたアセンシオさん。その酔狂な着眼点に趣を感じて購入した次第です。とはいえ指揮者は1937年ヴァレンシア出身。同郷の大先輩に,音の捧げものを手向けようと考えての録音だったのでしょう。大先輩のファリャやトゥリーナ同様,パリへ留学してデュカに学んだロドリーゴの音楽は,スペインの土着音楽を色濃く消化。それでいて,謙虚な人柄を反映してなのか,拍節構造は簡素で拍動明瞭。片田舎の農婦の口伝えのように飾り気が無く,その節回しにしみじみと篭もった悲哀で琴線を震わせる。数少ない吹奏楽アンサンブルのための作品を集めた本盤でも,そうした持ち味は聴けました。吹奏楽と民俗趣味の相性の問題なのか,聴後感はクラシックというよりも,子ども向け人形劇のBGMとか,中高のブラスバンド部みたい。よくよく耳を傾ければ確かに聞こえるデュカ門下らしい精妙な和音も,あくまで隠し味どまり。苦痛を覚えながら一度は聴き通したものの,個人的にはどうにも入り込めませんでした。都会育ちの人間に田舎暮らしは苦痛。キラキラ和音のネオンが大好きなあっしに,かがり火と行灯の音楽は合わないのかも知れない。でも,好きな人は好きなんでしょうねえ。資料的にも価値のある録音だとは思います。演奏もまずまず良いです。★★★★
"Third Concerto (Langlais) Concerto Lamento (Helmschrott) Concerto in G Minor (Poulenc)" (Guild : GMCD 7240)
Franz Hauk (org) Anno Kesting (tpni, perc) Markus Poschner (cond) The Georgian Chamber Orchestra, Ingolstadt
ミュンヘンを拠点に活動するローカルなオルガニスト,フランツ・ハウクは1955年ネウブルク生まれ。ミュンヘン音楽アカデミーの専科を1981年に卒業後,2002年からミュンヘン州立芸術大の教員を務めている人物。普通ならまずお会いすることもない彼と,極東の島国にいながらにして顔馴染み。これも,ギルド・レーベルから雨後のタケノコの如く量産される,彼と取り巻きの演奏する近現代オルガン作品集のせいです。本盤は2002年の発表で,滅多に聴けないラングレのオルガン協奏曲と初耳のヘルムーシュロットの珍品二題を,珍しくラングレ的な緊密プーランクで割ったオルガン・コンチェルト集。共演するのは,ウィドール作品集で組んだインゴルシュタット管よりさらにヤバそうな,インゴルシュタット・グレゴリオ祝祭室内楽団!知らね〜(涙)。作曲者自身も毒々しいラングレの毒味以外に,購入動機は何一つありません。ラングレのコンチェルトは完全に独壇場。打楽器入りの作品だからか,やや取って付けたようなリズムに興を削がれる瞬間こそあれ,狂気一歩手前の静かな叫びを無調スレスレのモード敷衍和声と旋律美で聴かせる孤高の音楽性は見込み通りでした。併録された謎作家ヘルムシュロットは1938年生まれ。ドイツ人ながらミュンヘン芸術大学を出てリエージュに渡り,トゥルヌミールの弟子ピエール・フロワドビーズに師事。1975年にシテ市音楽賞を受賞するなど,音楽的には仏寄り。トゥルヌミールの孫弟子の名に違わず,ラングレを少し大味にしたような晦渋モード使いぶりに笑いが止まりませんでした。残る最大の心配事は,たかだか12万都市には不似合いな複数オケとして参加なさるグレゴリオ祝祭管。しかし,聴いてみると意外や意外,むしろインゴルシュタット管よりはずっとまし。音色こそ垢抜けないものの,アーティキュレーションもまずまずで,静かなる狂人二名の精妙な和声を再現できているのではないでしょうか。★★★★








Recommends


George Robert & Dado Moroni "Youngbloods" (Mons : MR 875-431)
@I remember you Ablues for Andy Blush life Clove's mirror image Deast of the sun Emissing you Fvoyage Gmy kind of world Hpacific sunset Ieasy to love Jspring can hang you up the most Kstablemates LSusanita Mbody and soul
George Robert (as, ss, cl) Dado Moroni (p, rhodes)
標題からして,本家フィル・ウッズへの傾倒が明らかな本盤は,スイスのいなせなアルト吹きジョルジュ・ロベールが,イタリーの伴奏名人ダド・モローニを迎えた1992年録音の二重奏盤。モードもバップも器用にこなし,伴奏の手の内も多いモローニをロベールが気に入るのは尤もですが,本盤から十年後に発表された二重奏盤『ピース』でケニー・バロンを呼ぶ伏線がこんなところにあったかと,改めて納得しました。二人の馴れ初めは1985年のジュネーヴ音楽祭。各々別のバンドにいながら意気投合し,ロベールがカルテットを持った二年後には,モローニを呼ぶほど懇意になります。しかし,もともと別の国で生まれた双方をスイスで引き合わせたのは,中間派の大御所ベーシスト,ジミー・ウッド。ロベールを育てたのはクラーク・テリーやトム・ハレルでしたし,ハリー・エディソンやジェームス・ムーディに可愛がられたモローニもそれは同じ。彼岸に焦がれる,遠く離れた二名の伝承派を,彼の国の大御所が邂逅させ絵面を付けた,まさに幸福な成果です。本家よりも遙かに若いモローニの歯切れのいい技巧で,颯爽と流し目を送るロベールの伊達男ぶりが引き立ち,中身もリズムレスでありながら非常に気っ風良く,かつ爽やかな共演作となっている。その後,本家バロンとの夢の手合わせが実現すると,スイスに篭もったロベールはティエリー・ラングらとの共演が増え,モローニもハイ・ファイヴ絡みの助演が増加。二人の顔合わせは減ってしまいます。無名時代だったからこそ,お互いフットワークも軽かった。『若さ』の資本もまた,この幸福な成果を生んだ遠因のひとつなのでしょう。★★★★★
Jørn Øien Trio "Short Stories" (Resonant : RM 15-2)
@driftin Aminor Bhow easy can it be CNu O'leens Dblue Einfluences Fone wonder Gspiritual Hjeezee Imy one and only love
Jørn Øien (p) Terje Gewelt (b) Roger Johansen (ds) George Gazone (sax)
ご自身のレーベル,レゾナント・ミュージックの運営はどうやら本腰で取り組む気らしいテリエ・ゲウェルトさん。2004年に出た本盤では,地元でビーディ・ベル女史の歌伴やアルフ・シェルマン,エスペン・リュッドのサイドメンをなさっているキーボード奏者のデビューをバックアップしました。リーダーのイェルン・エイエンは1968年ナルヴィク生まれ。1987年にノルドノルスク音楽院へ進み,1991年に卒業後,2004年に本盤でリーダー・デビューを飾るまでは専ら脇役家業だった人物です。在学中はグリーグに傾倒し,クラシックを本格的に勉強していたそうで,北欧風のタッチは美麗。スタイルの基調にあるのは,北欧の叙情派ラーシュ・ヤンソンやアンダーシュ・ペーション辺りでしょうか。それでいて,甘さに流れる彼らスウェーデン勢よりも打鍵は重く,旋律線明瞭。ボボ・ステンソン風の武骨さとゴリ感が一本芯を通します。技巧的には決して達者な方ではなく,キース風の右手の単旋律を,左の分厚い和声で鷲掴みにするアドリブ・ラインもシンプル。トリオを銘打ちながら,要所にやざくれトレーン主義者のガゾーンを据える辺り,ピン芸人としてはまだ充分間を持たせ切れない彼の手管の乏しさを反映しておりましょう。しかし,キーボード兼業の歌伴キャリアが示すとおり,作編曲力は大変に高いですし,欲目を出してペースを乱すことなく,常に自分の分を弁えたピアニズムに徹する姿勢も好感度大。デビュー盤とは思えないほど,良くまとまっているのではないでしょうか。★★★★★
Cecilia Coleman Trio "Higher Standards" (Interplay : IP9901)
@daahoud Abut not for me Byou don't know what love is Cin love in vain Dmy romance Eold folks FAna Maria
Cecilia Coleman (p) Christoph Luty (b) Thomas White (ds)
1962年カリフォルニア州ロングビーチ出身のリーダーは,カリフォルニア州立大学ロングビーチ校商業音楽科を1986年に卒業し,1995年からは母校でジャズ・ピアノ科の講師をしている女流ピアノ奏者。最近はニューヨーク州のウェストチェスター近代舞踏センターにも籍を置き,東海岸へも活動の場を拡げている模様です。即興演奏の師匠は,ジョージ・シアリングのサイドメンとして西海岸ではちょっとした知名度を誇るチャーリー・シューメイク。卒業後,1991年までベン・クラットワーシー四重奏団のピアノ弾きを務めるも,1990年には五重奏団を結成して独立。初リーダー作『ワーズ・オブ・ウィズダム』でロサンゼルス・ジャズ協会からシェリー・マン新人賞を授与され,それ以降7枚ほどのリーダー盤を発表しています。本盤は1998年に発表されたもので,五重奏団を活動の核にしている彼女としては目下,唯一のトリオ録音。少しリズム感が硬いものの,かっちりと拍動を刻む左手のコードと,単音主体の右手から繰り出される明快なフレージングのコンビネーションで,徹頭徹尾気っ風良く,からっと爽やかなピアニズム。さながら女流森田健作の如き分かりやすさが好ましい。こういうピアニストの場合,右手が昼行灯だと箸にも棒にもかからないわけですが,本盤の彼女は心憎いほどに歌心豊か。パラッパラッと軽やかに,丁々発止と単音フレーズを積みあげて見せ場を持続します。両サイドメンもシンプルなバッキングで盛り立て役に徹し,アンサンブルとしても良く協調。原曲の味を殺さぬ範囲で爽やか加工するアレンジもそつがない。いいアルバムです。特別難しいことをしなくても,これだけ耳に快いものを作ることができるのだという,お手本のような作品と申せましょう。★★★★☆
Rob Bargad Piano Trio "Mom's Good Wishes" (Central Station Music : CSM 060101)
@for all we know ANadine Bmom's good wishes Ca pochet full of kisses* Dyesterdays Eyou got to have the two Fthe journey home Gthere goes the neighborhood Hthe seahorse dance Iautumn song Jyou and the night and the music Ksepember in the rain*
Rob Bargad (p, vo*) Matthias Pichler (b) Klemens Marktl (ds)
随分前,ナット・アダレイのグループで,小粒ながら趣味の良いピアノを弾いて印象を残したロブ・バーガド。1962年ボストンに生まれ,師匠はルトガース大学時代のケニー・バロン。モードからファンキー,バップにエヴァンスまでバランス良く消化した多芸さと,師匠譲りの端正な腕を買われ,1984年にニューヨークへ進出すると,すぐにジミー・スコットの歌伴に抜擢。1991年から8年間,アダレイの五重奏団でピアノ弾きの座を務めたのはご案内の通りです。当時はアルトのヴィンセント・ハーリングばかりに注目が集まり,割を食ってましたが,ピアノ好きのあっしは,小器用でバランスの良い彼のピアノに趣を感じたもんでした。その後ぱったりと見かけなくなり,どうしたのかと思ってましたら,いつの間にやらオーストリーへ移住。彼の地でジャズ科教授になっちゃった模様。檜舞台からは降りたようですけれど,お元気そうで何よりです。本盤は2006年に発表された,管見の限り1994年の『ベター・タイムス』以来12年振りのリーダー作。ラインハルト・ミコの脇を固めた腕利き二名が,しっかり補佐しており一安心。初耳のレーベルも臨場感豊かな集音で,ほぼ遜色はありません。確かに打鍵細くリズム固めで技術的には小粒なものの,フレキシブルでバランスのとれた全天候型のピアニズムでそれを補填。慎ましやかに光る巧さのピアノは変わらず。歌伴やサイドメンで重宝されるのも頷けます。時間を掛けて練られた楽曲も,多彩でありながら散漫にならず,穏健なまとまりを示しており好ましい。堅実にシングルヒットを狙う,職人タイプのジャズにも趣を感じてくださる方はぜひ。★★★★☆
Gordon Beck, Ron Mathewson, Daniel Humair "Jazz Trio" (Dire-Art of Life : AL1017-2)
@suite No.5: 1st mov. Asuite No.5: 2nd mov. Bsuite No.5: 3rd mov. Call the morning: 1st mov. Dall the morning: 2nd mov.
Gordon Beck (p) Ron Mathewson (b) Daniel Humair (ds)
1935年ロンドン出身のリーダーは,タビー・ヘイズの名作『レイト・スポット・アット・スコッツ』の伴奏で知られる英国のピアノ弾き。一時はフィル・ウッズのヨーロピアン・リズム・マシーンにも在籍したことがあり,個人的には,有名なジョルジュ・グルンツより巧かった。有名盤に恵まれていれば,もっと高い評価を受けていたろうに・・そう判官贔屓の心情を刺激せずにはおかない腕利きさんです。エヴァンス派の知性に先鋭的なフリー・フォームを溶け込ませた,刺激的なスタイル。晦渋なモーダル・フレーズを淀みなく繰り出す確かな技巧。二者が幸福に噛み合ったそのピアニズムには,1970年代欧州ジャズにおける,ピアニストにとっての一つの理想型がありました。彼の代表作といえば,エヴァンスと前衛がバランス良く拮抗した1969年作『ジャイロスコープ』でしょう。本盤は同作に続き,メンバーを一新して制作された1972年作。彼がちょうどウッズのグループで欧州ツアー中に,ミランで吹き込まれました。僅か二曲。5つの断章からなる組曲仕立てで,間にシュールな前衛を挟み込み,両端にポスト・エヴァンスを持ってきてオチをつけます。ベックのピアノは,基本的に前作の流れを踏襲。新主流派やジャズ・ロック,フリーまで幅広く取り込んだ,ソリッドで鋭角的なエヴァンス派。ほぼ同時期に録音されたジョン・テイラーの『覚醒』が脳裏を過ぎるのは私だけではないでしょう。そんな本盤とテイラー盤の決定的な違いは,ウッズ繋がりで加わったユメールの太鼓。テイラー盤トニー・レヴィンが繰り出すロール主体の直線的なドラムに対し,軽い小太鼓とエルヴィン風シャンシャン・シンバルで多彩に煽るユメールの太鼓は遙かに起伏があり,リズムの懐も深い。たった二曲では手を出しにくい方も多いでしょうが,実際は各断章は綺麗に分かれ,5曲構成。決して気難しいトリオではありません。この時代の欧州ものが大丈夫な方ならお気に召して頂けると思います。★★★★
Peter Zak "Seed of Sin" (Steeplechase : SCCD 31641)
@all day long Aminor apprehension Bpropinquity Cpoor people's march DHorace's dream Eshala Fperhaps Gseed of sin Hmemories of you Iking cobra
Peter Zak (p) Paul Gill (b) Quincy Davis (ds)
ライアン・カイザーの近作で,目立たぬながら小気味良いピアノを弾いているリーダーは,オハイオ出身。オークランドでクラシック・ピアノを習い,高校時代にジャズへ転向。カリフォルニア大学バークレー校を卒業後は,フランク・モーガンやジョン・ハンディのサイドメンとしてキャリアを積みました。ニューヨーク進出後は,ライアン・カイザーやエリック・アレキサンダーに可愛がられ,特にカイザーとは1998年以降,数枚のリーダー盤吹き込みに付き合う仲良しさんです。ニュースクール音大のジャズ科で教鞭を執るかたわら,2005年にはドリス・デューク財団から助成を得てリーダー盤の吹き込みも開始。本盤はリーダー4枚目にあたり,2007年に出ました。個人的な話で恐縮なんですが,このジャケットを見て真っ先に思い出したのが,ブルース・バースのトリオ作『ドント・ブレイム・ミー』でして。横顔だけならそっくりと思いません?似ているのは見た目だけではないようで,彼のピアノは典型的な全天候型。バースの隠れた佳作としてひと頃話題となった『ジョン・ハジラ・トリオ』をご存じの方は,ほぼその通りの音だと思えば宜しいでしょう。時にモンクやニコルズを絡め,ひねくれたところも見せるバースよろしく,マルグリュー・ミラーをトミフラへ小粋に絡めるザクのスタイルには外連味がなく,なるほど伝承派の若手ホーンに重宝されるわけだと納得。技巧的にはむしろ小粒で,強烈なキャラにも乏しい彼は,脇役としてのオールラウンダーさと,小粋なコロコロ運指が生命線。そのぶんトリオでは,核となる脇役が成否を握ります。本盤を好内容にした真の功労者は無名の両脇役。特に初耳の太鼓は巧いですねえ。1977年ミシガン州に生まれ,西ミシガン大学でビリー・ハートに師事。良い意味で師匠に全然似てねえ(笑)。★★★★
Gary Versace "Winter Sonata" (M&I : MYCJ-30289)
@winter sonata Abeautiful days Byours or mine Cmy romance Dthe days of wine and roses Eonce upon a summertime Fsummer knows Git might as well be spring Hfirst time Iseptember in the rain Jautumn nocturn
Gary Versace (p) Johannes Weidenmueller (b) Billy Drummond (ds)
「何か他の事をやりながら流れていても邪魔にならない,しかし聴く意思を持って聴けば充分楽しく,聴き応えある音楽」を制作理念に掲げ,強面のジャズ好きからいかに総すかんを喰らおうと,一貫してヌルいジャズを作り続ける確信犯的戦犯,それが木全信氏その人です。ケニー・ドリューの晩節を汚したと悪名の高いベイステイトの録音群からアルファ時代を経てM&Iの現在へ。ヴィーナスと肩を並べ,わき目もふらず一途にナンパし続けるその矜持。ここまで行くと立派なもんです。作る音楽がいかにヌルかろうと,数十年に渡ってその姿勢を貫くには,余程の根性が必要だったことでしょう。実際,リリカルな環境音楽として第一級の仕上がりとなった録音も幾つかありましたし,市場の支持を後ろ盾に,若手に与える牌を増やした功績は無視できない。2004年に本盤で単独リーダー・デビューを果たしたゲイリー・ヴェルサーチも,好個の例。1968年コネチカット州出身の彼は,1999年にマリアン・マクパーランドに見いだされ,彼女の主催するジャズ番組でフィーチャー。2002年にはニューヨークに進出するも,活動は殆どが脇役でのものでした。おばさまを中心に流行した『冬ソナ』を当て込んだ三曲に,目尻が垂れそうなバラードをてんこ盛り。内心,気の進まないところもあったでしょうに,エヴァンス〜トミフラ流儀の小洒落たピアノで,律儀に企画をなぞっていく。リーダーの控えめな仕事師ぶりが充分にうかがえる。あざとさ満点の意匠は,例によって大半のジャズ好きには否定的に聴かれるでしょうが,レザボア辺りで仕事をもらってもおかしくない,等身大のピアニズムは充分に魅力的。次はこういう企画抜きで聴いてみたい・・と思わせれば,木全氏的にもヴェルちゃん的にも狙い通り,なのでは。★★★★
Andrew Rathbun "Scatter Some Stones" (A-Records : AL 73174)
@scatter some stones Alost poems Bstumblin' Cthe top corner Dnations Edeja you Flazybird Gtwo lines Hephesus
Andrew Rathbun (ts, ss) Taylor Haskins (tp) George Colligan (p) John Hebert (b) Jeff Hirshfield (ds)
1999年発表の本盤でデビューを果たしたラトブン君はトロント出身のテナーマン兼作曲家。バークレーと並ぶジャズ・エリート輩出校でご存じロヴァーノ一派の薫陶を得た彼は,吹き手としてはなるほど,ロヴァーノ譲り。ジョーヘンとハンク・モブレーを足して二で割ったような,遠慮がちなトレーニスト・スタイルです。しかし,マンハッタン音大で博士号を目指すなど学級肌の彼が光るのは,むしろ作編曲家としての才能。卒業制作半分だったこの初リーダー盤でも,すでに御大コルトレーンのFを除き全曲を自作。早くから自分の本分を良く自覚していた様子がうかがえます。彼の作編曲流儀は典型的な新主流派。モーダルな節回しと凝った和声・転調でクールに流し目を送る。吹き手としては遠慮がちなジョーヘン,書き手としてはショーター〜ジョーヘンからハバードの良いところを摘み食い。メンバーも大半が現在まで懇意な面々となると,出てくる音が今と大差ないのも道理。デビュー作にしてできあがっちゃってたわけですねえ。惜しむらくは,彼ら先輩の嫡流を気取ったにしては,編成がバピッシュな二管。ここからもお分かりの通り,まだ本盤で出てくる音には若干のちぐはぐさが感じられる。模倣の域を完全には抜けきれない,習作期の面影を留めた作品でもあるでしょう。それでも,デビュー盤でこの作編曲力はやはりただ者ではない。ジョーヘンの『モード・フォー・ジョー』やフレディ・ハバード『ブルー・スピリッツ』辺りの多重管ものに趣を感じる方であれば,間違いなくにんまりすることでしょう。★★★★
Martin Löfgren Quartet "Flow" (Amigo : AMCD 875)
@gods who shit ATo fukuji no aki Bvittring Ccelebration Dremembering Issa Esågaren Fsolöga GKnutssong Hstatikern Iflow Jlängtan Kat-one-ment Lsökaren
Martin Löfgren (ds) Lars Jansson (p, synth) Yasuhito Mori (b) Jonas Knutsson (ss, as, bs)
ヤンソンと森の二名が参加することで,出てくる音もある程度予測可能な本盤は,ウメア出身のスウェーデン人ドラマーの1995年作。ストックホルム・ジャズ・オーケストラやヴィクトリア・トルストイの吹き込みで,ちらちら名前は見かけたものの,リーダーは寡聞にして良く知らず。ほぼ何の期待もしておりませんでした。しかしながら,聴いてびっくり玉手箱。ご当地以外では無名に等しいクヌートソンともども,非常に腕のいいジャズ職人が揃った好内容作。ヤンソン目当てで買ったら主役も上手くてびっくり・・というパターンは,オーヴェ・インゲマルソン『ハート・オブ・ザ・マター』の二匹目のドジョウですか。時折前衛風のモチーフを絡めつつも,基本の音はフォーク・ロック風味の入った北欧ジャズ。『マイ・ソング』で一世を風靡したガルバレク〜キースのヨーロピアン・カルテット路線を継承したものです。個人的にジャズ・ロックはやや苦手なうえ,それを割り引いても楽曲が玉石混淆で,全体の作りがやや散漫になってしまったのは惜しい。そんなところまでインゲマルソンを踏襲しなくてもええじゃろとの感を禁じ得ません。それでも,スティーブ・ドブロゴッツ辺りのフォーキーな北欧ジャズ・ロックがお好きな方なら抵抗は殆どないでしょうし,演奏そのものの技量は非常に高水準。太鼓もソリッドで相当良く叩けてますし,アルトやソプラノを使ってまで,ガルバレクやサーマンの引き締まった音色を追求するクヌートソンも,ハードボイルド。お馴染みレインボウ・スタジオで行われた録音は,勿論ヤン=エリク・コンシャウが担当。やや生音重視に重心を移したECMの体で,集音も良いです。★★★★
Andrew Cheshire "This is Me" (Joule : 3557)
@endless sky Athese four walls Balways be near CI should care Dhip hop Ewalking the red horizon Fwillow GStella by starlight Hthis is me
Andrew Cheshire (g) Don Friedman (p) Ron McClure (b) Matt Wilson (ds)
初耳のリーダーは1962年ニューヨーク州アーヴァーン生まれ。ピアノを経て10歳からギターに転向しました。1980年にはブルックリンへ移住。地味な活動を展開していた彼は,ウォルター・パーキンスのグループに抜擢された1991年,ようやくチャンス到来。本盤で初リーダー作に漕ぎ着けたのは,1996年のことでした。タイプとしてはパット・マルティーノとウエスの折衷。一音一音のくっきりしたフィンガリングとモーダルな単音フレーズはマルティーノ譲りな一方,音色や音の太さはグラント・グリーンの趣もあり,黒人ギタリストのソウルフルで野太い音色を残しながら都会的なフレーズも駆使したい欲張りさんといったところ。大した実績もない彼には不釣り合いなほど豪華なサイドメンに吃驚。ダークな呪術性を秘めたオリジナルの作曲センスはかなり良く,ほとんどを自作する自信を充分に裏づけます。それだけに惜しいのは,タイム感がよろしくないこと。ミディアム・ファストの@は象徴的で,後ろの伴奏陣も困惑するほど派手に拍子を外してしまいます。結構なお年のフリードマンは完全に釣られてしまい,前のめりに蹴躓くことつまずくこと。曲がなまじ格好良いだけに隔靴掻痒の感を禁じ得ません。その辺が,センスの割りに評価がついてこないゆえんでしょう。余談ながら,彼に関してはアルバムよりも,手作り感溢れるウェブサイトのほうがインパクト大。英語を含め,なんと九カ国語対応!こんなワールドワイドなサイトを作るとは・・と目を丸くしつつ「日本語」をクリックしたら・・。デレク・テイラーとググる先生がバイリンガルなフリージャズを実演されてました。★★★☆
Gianni Lenoci Trio "All in Love is Fair" (Splasc(h) : CDH 693.2)
@all in love is fair Aarchetipi Bnylo ntylo Clove, bittersweet Dbone Eeverything must change
Gianni Lenoci (p) Bruno Tommaso (b) Antonio Di Lorenzo (ds)
リーダーは1963年モノポーリに生まれ,現在も生地でマイペースに活動中の中堅。ローマへ移り,聖チェチーリア音楽院でマル・ウォルドロンとポール・ブレイに師事しました。ローマでは,師匠筋の人脈でハン・ベニンクやスティーブ・レイシー,スティーブ・グロスマンやハロルド・ランドらと,華麗な共演歴を蓄積。ただ,本人はどちらかというと学究肌だったようで,近年『未完のジャズ演奏家のための演奏教本』なる著作を執筆。1990年の帰郷後も,ニーノ・ロータ音楽院ジャズ・現代音楽科で演奏法と作曲法の教鞭をとる傍ら,ケージやフェルドマン,シェーンベルクら強面の現代音楽の上演にも積極的に取り組んでいるようです。本盤は1998年にバーリの《ジャズ・エ・ジントーニ・クラブ》にてライブ録音された,管見の限り初リーダー作。よくある伊ロマン派を基調としつつも,CやDに出てくる堂に入ったフリー・フォームで,現代音楽経由の強面ぶりも披露。随所に織り交ぜる装飾音では印象主義,Eではモンポウ的な思索性も。センスそのものはかなり良い部類なのでは。それだけに,ライブとはいえあまりにヒドイ録音は,口惜しいの一語。大物トマソの醜悪なピッチが覆いようもなく晒され,センスは良いが鍵盤を巡るのも大儀そうな主役の指,がさつな太鼓と相俟って,すっかり演奏を貧相にしてしまいます。案の定,録音技師に記載されたのはドラマーその人。ある意味,究極の自主制作。イタリア人は大雑把な国民性なのか,スプラッシュやフレッシュサウンドのような有名レーベルですら,素人紛いの録音や意匠のCDが平気でカタログに載っている。こんなヒドイ録音を平然と売るなんて。日本じゃ考えられないですねえ・・。ちなみに彼は,これ以降沈黙するも,2005年に師匠の盟友レイシー作品集を発表。翌年には双頭名義のトリオ作も出した模様。そっちは,もう少しましなことになっているかも知れません。★★★☆
Daniel Powter "Daniel Powter" (Warner Bros : 9362-49332-2)
@song 6 Afree loop Bbad day Csuspect Dlie to me EJimmy gets high Fstyrofoam GHollywood Hlost on the stoop Igive me life
Daniel Powter (vo, key) Val McCallum, Jeff Dawson (g) Mitchell Froom (key) Davey Faragher, Darren Parris (b) Matt Chamberlain, Brendan Ostrander, Pete Thomas (ds) Jeff Dawson (prog)
Bが,向こうでは有名なオーディション番組で,不合格者の退場曲に選ばれたお陰でヒット。一躍時の人となったらしいパウター君は,1971年ブリティッシュ・コロンビア州オカナガン・ヴァレー出身のカナダ人。オカナガン渓谷と聞いてもオゴポゴしか思い浮かばんこのあっし。2005年に一世を風靡した本録音を定価で買おう筈もなく,拾ったのは皆さまお馴染み250円コーナーでございますともさ。彼の名前を知らない方も,ヒットしたBは耳にしたことがおありでしょう。時代を反映し,リズムトラックこそドラムンベースっぽいですが,上ものはピアノと最小限の弦と管。今どき珍しい生音重視のピアノマン・タイプで好感を持ちました。一発屋は往々にして,アルバムを聴くと堕曲揃いでがっかりするもの。そこへ行くとこの人は,やや捻り足りないながら小粒な佳曲が揃い,曲書きの能力はある模様。何でも地元の音大まで進んだものの,楽譜が読めなかったため二年で中退。人の書いた曲が読めないなら自分で作るしかない・・と一念発起したのが,今日の成功を手にするきっかけになったというから世の中分かりませんな。今どきの若人にこんな喩えは通用せんでしょうが,声質自体はメロウなロッド・スチュワートやブライアン・ジョンソン(AC/DC),ないしジャミロクワイのジェイ系。ハスキーなハイ・トーンです。この辺もちょっぴり好みが分かれるかも知れませんですねえ。ちなみに彼,この2008年9月に新作を発表したそうな。本盤ではBの二の矢を放てず終わった彼にとり,ここでヒットできるかどうかは一つの正念場。一発屋で終わるか否か,まさしく崖っぷちと申せましょう。幸運を。★★★☆



Other Discs

Pete Malinverni "The Tempest" (Reservoir : RSR CD 177)
@the tempest Amy heart stood still Blet the sea roar: psalm98 Calone together Dtwelve Eget happy Fmy ideal Gfrom this moment on Halone together Iit could happen to you
Pete Malinverni (p) Dennis Irwin (b) Leroy Williams (ds)
元々テクニシャンでもないのに,近作では徐々にアップテンポやバップ・チューンの比重が高まり,手数王へ無謀な挑戦をしては派手に玉砕していたピート・マリンベルニ。きっと私同様,ヴァン・ゲルダーの二枚でどっぷりはまり,昔の恋人を諦めきれぬ未練男の如くストーカーしてる人間が多いんでしょう。急速に光を失いつつも,過去の貯金でアーヴィン〜ウイリアムスとのトリオをなお継続。ところどころに自作を散りばめつつ,日本人好みのスタンダード曲を散りばめる案配も,思わせぶりな態度でカモを通わせる水商売女の如くに手慣れております。嫌な予感は十二分にしながらも,またぞろ2004年盤を買っちゃうこの惰性。営業スマイルと分かっていながらキャバ嬢に貢いでしまう,だらしない中年サラリーマンと大差ない。小傑作『ディス・タイム』と被るBの副題に,一縷の望みをかけて,つい要らぬものを買ってしまった・・。結果はといえば,やっぱりなの凡作。くだんのBは,まさしく昨今の勘違いっぷりを象徴するような演奏で,ロレツの回らない後半のカデンツァは醜悪の一語。スロー・バラードで音数を増やすようになったら,この人はお終い。誰もお前の手数なんぞ期待してねえんだよ!とガラにもなく悪態をついてしまいます。弾けないくせに手を出すアップ・テンポのAやE,Gなども駄目の上塗り。自分が何でレザボアに拾われ,一躍人気の連作を任されるようになったのか,もはや完全に忘れてしまった様子です。はあ,アルバムを重ねるごとに駄目になっていきますねえ。もうそろそろ後追いするの止めたくなってきた・・。★★★
Tim Stevens Trio "Three Friends in Winter" (Rufus : RF078)
@july Athree friends of winter: pine Bthree friends of winter: bamboo Cthree friends of winter: plum Dthree friends in winter
Tim Stevens (p) Ben Robertson (b) Dave Beck (ds)
10年ほど前に,ブラウン,ヘイウッド&スティーヴンス(BHS)名義のトリオ作で一部の輸入盤マニアから注目を集めたティム・スティーヴンスは,1971年生まれ,メルボルン在住のピアノ弾き。ヴィクトリア芸術大学を1996年に卒業,メルボルン大学で2000年に博士号。この芸大時代に結成したのがBHS。彼らは二枚のトリオ作を残しており,前者は入手至難盤として知る人ぞ知る一枚です。卒業後一度はシドニーに拠点を移したものの,2001年にはメルボルンへ帰郷。ピアノ独奏による初リーダー作『フリーハンド』から現在まで,さらに三枚のトリオ盤を吹き込みました。BHS時代は,叙情性豊かで感傷的なオリジナルを書くエヴァンス派の佇まいだった彼も,ソロ転向後は本性丸出し。博士号持ちのインテリ臭を前面に出し,実験的なフリー・インプロと,北欧ジャズを彷彿させる低体温隙間系オリジナルの二枚看板で勝負するピアニストに。『フリーハンド』と同じ豪ルーファスから出た本盤も,編成がトリオになった以外は独奏盤の路線を継承。集合的即興を大幅に組み入れた長尺の組曲は,良くいえば理知的で凛とした緊張感があり,ボボ・ステンソンやジョン・テイラーの近作風。録音も優秀で,本家の空気をかなり忠実に再現できているのではないでしょうか。ただ,意図的なのか,簡素な和音進行の動機をネタに,無窮動的な間とニュアンスだけで聴かせること十数分。起伏も乏しく,さすがに飽きてしまう。北欧好きなのも,ゲイジュツに忠実であろうとする良心なのも分かるんですけど,さすがにこれは音楽を売り,聴かせるプロの仕事としては内向きすぎ,自慰的すぎるんじゃないでしょうか。ちなみに彼,つい先ごろ本盤と同趣向の続編『ミケッツ』を出した模様。こちらは曲数が増え,演奏時間も短そう。あるいは反省したのかな?★★★☆
LeeAnn Ledgerwood "You Wish" (Triloka : 187-2)
@Robins row ATaisho pond BMiss perfect Cchance Dnardis Eafterglow Fyou wish Gsmash and grab Hterribillis II want to talk about you
LeeAnn Ledgerwood (p, synth) Jeremy Steig (fl) Bill Evans (ts, ss) Eddie Gomez, Steve LaSpina (b) Danny Gottlieb (ds)
のち,スティープルチェイスに移籍し,数枚のリーダー盤を吹き込んでから日本でも一部で知られるようになった女流ピアノ弾きリーアン・レジャーウッド女史。やや剃刀系ながら確かな技巧が物語るとおり,クリーブランド音楽院でグラント・ヨハネセンに師事したクラシック・ピアノが下地。在学中にジャズに興味を抱いて転向し,北テキサス大を経てバークレー音楽院に進みました。本盤は1991年に出た彼女のデビュー作で,彼女を可愛がっていたエディ・ゴメスが脇を固め,ジェレミー・スタイグ以下のサイドメンを案配。当時のゴメスの好みが色濃く出たペラペラ・フュージョンをやってます。ピアノのほうのエヴァンスと残したカルテット盤が有名な鬼人スタイグが,なぜかフロント。シャレ以外に何の目的があったのかすら疑わしいですが,齢を経て丸くなった彼のフルートは予想外に馴染み,ほっとするやら苦笑するやら。ゴメスが惚れ込むのも頷けるパンチの利いた運指とモーダルなソロは新人離れした上手さで,のちの成功を充分に予感させるものです。ただ,ピアノ専業の横好きフュージョンにありがちな意匠のガサツさが,本盤を作品として陳腐なものにしてしまう。特に取って付けたようなシンセ・ストリングスは存在意義が全く感じられず,田舎臭いことおびただしい。オメーはどこのカントリー娘だよと失笑を禁じ得ませんでした。どこもかしこも若気の至りな本盤,今となっては,即興面で将来性を占うために存在を許されていたゴミ盤でしょう。ついデイヴ・キコウスキーのデビュー盤を思い出してしまった・・って,あっちもゴメス絡みかよ!お粗末。★★★
Hiromi "Another Mind" (Telarc : CD-83558)
@xyz Adouble personality Bsummer rain Cjoy D010101 Etruth and lies Fdancando no paraiso Ganother mind Hthe Tom and Jerry show
Hiromi Uehara (p) Mitch Cohn, Anthony Jackson (b) Dave DiCenso (ds) Jim Odgren (as) Dave Fuczynski (g)
テレビ番組などでちらちら小耳に挟んではいたものの,バカに誉める取り巻きと,誉めるほどとは思えぬピアニズムの落差に辟易。「酷評しか書けそうにねえ」と思って手を出さずにいた彼女。わずか数年で100円にまで身を窶しているのを見ては,買わないわけにも参りません。本名,上原ひろみさんは,1979年静岡県出身。16歳でチック・コリアに見初められ,20歳でバークリーへ留学。同首席卒業と天才を示すエピソードには事欠かず,2003年にいきなりテラークから本盤でデビューと破格の待遇。ハイエナの如く売れ線を漁る,耳が鎖国状態の某誌が放っとくはずもなく,翌年には同紙の年間ディスク大賞を受賞しました。なるほどチックが刮目するのも道理,冒頭からもりもり盛られる高速運指には目が点。技巧的には派手ですし,フュージョン風の楽曲も若者向けで,自称オープンなジャズ好きには受けるんでしょう。しかし,数年もしないうちに冠された100円の値札が全てを物語るとおり,技巧以外にはほとんど何も残らない音楽です。無邪気さを装うべく,てんこ盛りにされた作為的なアレンジは,押しつけがましく下品。道化の顔の奧から聴き手に柔らか頭を強いる傲慢さに満ちている。指は動くが硬い打鍵,アドリブの利かないソロと相俟って,聴後感の悪いことと言ったらない。楽曲がショボいこと以外はトリオ・トゥケアットそっくり。胸が悪くなりました。明らかに未熟な輩に過大な評価を与えてバブルを画策する,ジャズ論壇の常套手段。数年おきにこういう「百年に一度」が出てくるのは困りものです。散々アレンジした8曲より掉尾のソロ・ピアノが一番しっくり来る・・そんな聴後感が,彼女の演奏家としての限界を物語っておりましょう。★★






脱稿:2008年12月3日 14:02:13

編集後記

完全に
御無沙汰がデフォルトになってしまった
ごめんなさい,本業で余裕がないんですごめんなさい
・・とか,言い訳がましいことをいうのは,もうよそう。







先月一番シュールだったニュース。

津南小版 「ブタがいた教室」
津南町の津南小学校の5年生児童67人が13日、飼育してきたブタとのお別れ会を開いた。「命」と「食」の大切さを学んだ子どもたちは3匹のブタと涙でさよならした。

5年生の児童は、総合学習の一環で食用豚の飼育に取り組んだ。人間の食が動物の命と引き替えに成り立っていることを実感してもらうことが狙い。同町の養豚業者「つなんポーク」から3匹の子豚を買い取り、12月の出荷前まで約2カ月間、子どもたちが交代で世話をした。

「ミルク」、「ヨンサマ」、「マーブル」と命名され、子どもたちの愛情を受けて育ったブタたち。40キロだった体重は90キロにまで増え、順調に生育した。

お別れ会では、児童全員が呼び掛け形式で子豚の思い出を語り、「大切な仲間だよ」とメッセージを送った。別れの直前にブタはグラウンドに放され、気持ちよさそうに走って児童と最後の触れ合い。ブタがトラックに積まれ激しい鳴き声を上げ抵抗すると、子どもたちの多くは涙をぬぐっていた。

樋口美蘭さん(10)は「最後の鳴き声を聞いて、かわいそうで、さみしくなった。短い間だったけど、命の大切さを教えてくれた」と目を真っ赤にして話した。
新潟日報2008年11月14日
http://www.niigata-nippo.co.jp/pref/index.asp?cateNo=2&newsNo=137403
ひでえ,トラウマになること請け合いだ。
これを公教育でやるってんだから
偉い先生方のお考えになることは,ホント分からない。
でも命の大切さを「思い知らせる」つもりなら
ここまで見せないと効果は期待できない(←グロ注意)。







妙に可笑しい。
レミ・ゲラールさんの作品です

続編
周りの暖かいリアクションが素敵。

これも結構好き(笑)




お父さん可哀想過ぎ
出典




最近のニュースから,幾つか。

@児童ポルノ禁止法改正案めぐり議論
法務部会は6日、児童買春・児童ポルノ禁止法改正案を了承した。今国会に提出される予定。同改正案は性的好奇心を満たす目的での児童ポルノの所持や電磁的記録(DVDなど)への保管に罰則規定を設け、1年以下の懲役または100万円以下の罰金を科すというもの。ただし、罰則は施行日から1年間は適用しない。同法改正の背景には、インターネットの普及で自動ポルノが氾濫し、児童への性的虐待などが誘発されてきたほか、G8諸国のうちわが国とロシア以外が処罰規定を設けていることがあげられる。(2008年6月6日)
http://www.jimin.jp/jimin/daily/08_06/06/200606a.shtml
スコーピオンズ・ファンは全員逮捕ってことでファイナルアンサー?


A国籍法改正案が成立か
参院法務委員会は3日午前の理事懇談会で、未婚の外国人母と日本人男性の子どもの国籍取得要件から両親の結婚を削除するとした国籍法改正案について、4日に採決することを決めた。改正案には各党とも賛成しており、5日の参院本会議で可決、成立する見通し。(2008/12/03-12:23)
人権擁護法案よりえげつない。
結局,某民主党の反対でDNA鑑定も見送り模様。
こんな提案こんな提案を掲げる民主党,
一体どこの国の政党だよ・・(-_-;)
ノービザの国から怒濤のように難民が来るぞ
ヤクザとブローカーはウハウハだな。

ちなみに後者は,まとめサイトができてました。
●国籍法改正案とは?
DNA鑑定なしに、男親が「俺の子です」と認知さえすれば、外国人の子供が誰でも日本国籍を取れてしまうようになるザル法案。しかも、罰則は超緩い。

●成立すると起こりうる問題
DNA鑑定不要→偽装認知が簡単/母親と結婚していない人でも認知可能→1人の日本人男性で何百人もの認知が可能

その結果…
・人身売買・児童買春など悪質なビジネスが横行
・偽装で取得した子供の日本国籍を盾に続々と外国人親族が日本に大挙
→外国人スラム街が誕生し、治安が悪化。いずれ日本のことを外国人に決定されるようになる。
・巨額の血税が、偽装認知で生活保護の権利を得た外国人親族のために公然と使われる
http://www19.atwiki.jp/kokuseki/


ボーイ・ジョージ、不法監禁の起訴事実を否認 (ロイター)
11月24日、ボーイ・ジョージが不法監禁の起訴事実を否認(2008年 ロイター/ Andrew Winning)
[ロンドン 24日 ロイター]インターネット上で知り合った男性を自宅に監禁したとして、昨年11月に不法監禁罪で起訴された英ポップグループ「カルチャー・クラブ」の元ボーカル、ボーイ・ジョージ(本名ジョージ・オダウド)被告の初公判が24日、当地の刑事法院で行われ、同被告は起訴事実を否認し、争う姿勢を示した。

プレス・アソシエーションによると、インターネット上で知り合った同被告と男性は、性的な写真を撮影する目的で面会。その際、同被告から男性に300ポンド(約4万4000円)が支払われた。

その後、同被告は自分のコンピューターをハッキングしたと男性を疑い始め、検察側によると、2度目の面会時に男性を鎖で監禁した。[ 2008年11月25日 12時8分 ]
http://news.www.infoseek.co.jp/photo/reuters/full/story/25reutersJAPAN350772/

記事に添えられた写真をみて我が目を疑った。
どちらのハート様ですかこれは。
これがほんとの劇的ビフォーアフター

それではまた次号,
しぃゆうあげぃん。

ぷ〜れん敬白 

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