暗愚楽月報
The Underground Disc Review
第66号

明かりを付けましょ アンプに通電
お花をあげましょ モーリス・OHANA
五人囃子でモロ前衛
恐怖肌のCD雛祭り


Editer's Note

今月の金賞(D'OR)


★★★★★
"Symphonie Concertante (Jongen) Symphonie No.3 (Saint-Saëns)" (Cypres : CYP7610)
Pascal Rophé (cond) Olivier Latry (org) Orchestre Philharmonique de Liège
これは嬉しい!先にエスケーシュのオルガン協奏曲で共演を果たし,高い評価を得たパスカル・ロフェとオリヴィエ・ラトリーが,今度はリエージュ管を傭兵に,ジョンゲンの『協奏的交響曲』を録音するなんて。久しく好い録音が出ていませんでしたが,本国から出た本盤は久々に決定版クラスと申せましょう。ラトリーは23才でノートルダム聖堂の正オルガニストになったことで一気に知名度を得た俊才。メシアンの連続録音で世界的にも名を知られるようになりました。オルガン奏者が凄腕の録音として印象に残るジャン・ギユー盤が,解釈面で大きくバランスを欠いているのに対し,本盤は斯様に腕利きの対決でありながら,テンポ取りやアクセント配置などが良く推敲され,無駄に走るところがなく,原曲を尊重する奏者の謙虚な姿勢が十分に感じられます。解釈面で中庸を得た録音としては,デ・ワールトのもありましたが,それから四半世紀を経たお陰で,録音の解像度が段違いに向上。オルガンがくっきりと録れていて,優秀なリエージュの弦部の肌理や,粒立ちの明晰なラトリーのオルガンの掛け合いも明瞭に聴き取れる。ギユーへの対抗心からか,掉尾では6分12秒とやや走ってしまいますが,音楽的には十分コントロールできており,解釈面での破綻や無理はほとんど感じられません。欲をいえばオケはもう少しスラー気味だと嬉しかったんですが,好みの問題でしょう。文句なしに5つ星級の名録音万歳。しかし,ジョンゲンのカップルはなんでいつも朝日が燦々なんでしょ?故国には彼を賛美して止まないフロル・ペーテルスの素晴らしいコンチェルトがありますのに。






Recommends


Ernest Bloch "Schelomo / Violin Concerto / Hebrew Suite" (Supraphon : SU 3169-2 011)
Karel Ancerl, Jindrich Rohan (cond) André Navarra (vc) Hyman Bress (vln) Czech Philharmonic Orchestra: Prague Symphony Orchestra
作品によっては半音階無調風の鬱々した曲を書くものの,基本的にブロッホさんはユダヤ臭い(ヘブライ風の)エキゾチックなモーダル・フレーズを,色合い豊かな伴奏譜で飾らせたときが天下一品。元々ヴァイオリンを真面目に勉強していた人なので,本盤のような曲は独壇場でいうことなしでしょう。有名人ナヴァラがアンチェル指揮のチェコ管とシュロモを録音し,これという演奏を聴いたことのないブロッホの名品ヴァイオリン協奏曲を,一応名のあるプラハ響が演奏してるというだけで買ってみた本盤。「またモノラル録音かな」と疑心暗鬼しつつ耳にしますと,1964年にもかかわらずステレオ録音!やれば出来るぢゃないっすか〜。多言を要さないシュロモの演奏陣は当然の美演。残る不安要素は聞いたことのないヴァイオリン奏者です。1931年カナダ生まれの南アフリカ育ちという変わり種で,1946年から1951年に掛けカーティス音楽院でイヴァン・ガラミアンに師事。卒業後はモントリオールに移り,モントリオール弦楽四重奏団を結成して第一ヴァイオリンを務めるかたわら,1シーズンだけではあるものの,モントリオール響のコンサートマスターもやったんだそうな。いかにも知名度落ちながら,演奏はこれまた意外なほど良演。重音や速いパッセージの細部にちょっと怪しいところはあるものの,溌剌とした語り口で伸びやかに演奏できており,中東風のエキゾチックな旋律が全編を支配するこの曲に良く合っている。管部が微妙なところのあるチェコ管も,時折弦部がもたつくプラハ響も,欠点としては些末。時代に似合わず綺麗な録音とキラキラ和音満載の楽曲,そして美麗な演奏の三銃士が揃えばもう無敵。お薦めです。★★★★★
"La Main de Dieu Fait ma Force / St.Matthieu d'après Caravage (Godard) Psaume 121 (Milhaud) Quatre Petites-Prières de St.François D'Assise / L'audes de St.Antoine de Padoue (Poulenc) Messe (Caplet) Cantique de Siméon, op.135-2, 3 (Schmitt) La Fable du Monde: Dieu Crée la Femme (Dumas)" (Studio SM : D2482)
Laurent Grégoire (cond) Ensemble Vocal Phonandre
『20世紀の仏聖歌集』と題された本盤,副題に「無伴奏男声合唱のための」と付くとおり全曲アカペラ。楽器が付かないぶん,オーソドックスな古典教会音楽の旋法表現と骨格が引き立ち,荘厳な雰囲気。豊かな和声の彩りが豊かな色合いを与え,近代の耳にも堪える音楽へと昇華しており,まさしく良いとこ取りで二度美味しい。酷い意匠のジャケットとは裏腹に,収録曲もミヨーやプーランク,カプレの名が並び穏健と言うことなしです。こうなると不安要素は歌唱陣のみ。初耳のポナンドル合唱アンサンブルは,1991年に男声12名で結成されたアマチュア合唱団。馴れ初めは何と兵役だったんだそうな。得意にしているのはプーランクらしく,結団の2年後,本盤にも採録された『4つの小さな祈り』でモントルー聖歌祭第一席を獲得。1994年にはトロサ国際コンクールで,アマチュアの聖歌隊としては異例の二部門受賞を果たしました。評判に違わず,本盤の歌唱力もかなりの高性能。その後ほとんど名前を聞かない気がしますけど,上手いのに勿体ないですねえ。採録曲はどれも素敵ながら,個人的には以前も耳にしたことのあるゴダールの,簡にして要を得た筆致に快哉。1920年とかなりヤバい年代の生まれながら,およそそれが信じられないほどに穏健で,南洋系のデュリフレみたい。長くリヨンの聖ジャン教会で合唱団長をしていましたが,昨年2月に亡くなった模様。良い曲書いたのに浮かばれませんねえ。★★★★☆
Vitezslav Novak "Piano Quintet in A Minor / Slovak Songs / Song of a Winter Night" (ASV : CD DCA 998)
Migdalena Kozená (msp) Radoslav Kvapil (p) Kocian Quartet
管弦楽ばかり有名なノヴァークの他ジャンルを摘み食い。とっても便利な本盤の魅力は,演奏が競合盤よりも格段に良いことでしょう。ウルマンの室内楽作品集で美演を披露したコチアン四重奏団がここでも登場。さらに,ソプラノが良くストレッチト・アウトしてて実に上手い。1973年ブルノ出身で,1995年のモーツァルト国際コンクールの覇者。初耳ながら実績に違わぬ伸びやかなお声で溜飲を下げます。演奏は高水準で,ほとんど問題ないんじゃないでしょうか。強いて難を挙げるなら,1958年のヤナーチェク国際に入賞した経験を持つらしいブルノ出身のクヴァピルさん。ドボルザーク協会の会長さんもなさっているらしいボヘミア地方の大御所ですが,還暦を過ぎたご高齢だからか細部に音符の摩滅がある模様。でも,気にしなければさほど気にはなりません。楽曲のほうは初期の懐旧派的側面に重点が置かれ,作品番号わずか12の『ピアノ五重奏』はルクー風味も漂う優雅な転調ロマン派音楽。美曲ながら近代の耳にはやや古めかしい。中ほどを貫く民謡集は全て伴奏譜を充てただけのアレンジ作品です。・・こう聞いて早くも買う気喪失な貴兄には,掉尾の独奏曲『冬の夜の歌』がお薦め。メロディアスで保守的な曲構造は保ちつつも,分散和音を多用した輪郭ぼかしやモードの導入,多彩な装飾リズムの援用が近代の色合いを添加。スペイン的ですらある掉尾の「謝肉祭の夜」を筆頭に,仏近代への憧憬が充満します。カラフル和声をロマン派形式の上に折衷して成功した『タトラ山にて』の直後に書かれたのも頷ける佳品。それだけに,やや重音連打が辛そうなピアノは残念でした。★★★★☆
Claude Debussy "Petite Suite / danse Sacreé et Profane / Fantaisie / Rapsodie / Premier Rapsodie" (Denon : COCQ-70891)
Emmanuel Krivine (cond) Jean-Yves Fourmeau (as) Margit-Anna Süss (hrp) François Souzeau (cl) Jean Philippe Collard (p) Orchestre National de Lyon
1999年に発表されたのち,有名曲の『牧神』以下,印象主義三部作が揃った第一集だけを残して忽ち市場から姿を消したクリヴィヌのドビュッシー三部作。こちらはその第三集にあたり,ビュセール編の『小組曲』にハープのための『2つの舞曲』,2つの『狂詩曲』に『幻想曲』と,「これ3000円も出して誰が買うんじゃ?」としか思えないオタ向けの選曲が泣かせる一枚です。今回,めでたく本盤もクレスト・シリーズに加わることになり,第一集に続いて1000円で聴けることになりました。『映像』が失敗だっただけに,些かおっかなびっくり耳にしましたが,意外にもこれが悪くない。やや芝居ッ気過多なところはあるものの,速めのテンポでさっぱりと振られた『小組曲』は軽やかな耳当たりで好演。たっぷりと抑揚を利かせつつも,語尾を膨らませずさっぱりと音を抜く,クリヴィヌらしい揺らしの妙技が,やや硬いハープを補って光る『舞曲』,もう少し膨らましても良い気はするものの,技術的には見事なフルモー参加の『狂詩曲』,バランス良好で白眉の『第一狂詩曲』,少しコラールが硬いものの第二章は見事な『幻想曲』と,一様に一定のレベルを確保した演奏が並び,第二集で生じた不安感は充分埋まります。相変わらずリヨン管の弦は細かいところにざらつきが残りますし,クリヴィヌの揺らし芸は諸刃の剣。それでも,この選曲がこの顔触れで聴けるなんて。充分1000円の元を取ってくれるのでは。★★★★☆
Darius Milhaud "Symphonie No.5, op.322 / Symphonie No.6, op.343" (CPO : 999 066-2)
Alun Francis (cond) Radio-Sinfonieorchester Basel
多作を誇るミヨーの交響曲は,南仏の暖かな日溜まりを思わせる作曲者後年の叙情性が,最も色濃く出たお薦めジャンル。しかし,録音は断片的にしか録った人間がいませんでした。今から10余年前にその牙城へ取り付き,見事全曲初踏破に成功した冒険家が本盤の指揮者アラン・フランシスさんです。1963年に王立マンチェスター大を卒業後,1966年にアルスター管の助演指揮者,1969年に同音楽監督を歴任。1974年から10年間は北アイルランド歌劇場の芸術監督を務めました。1989年からはドイツに拠点を移し,北西ドイツ・フィルの音楽監督,ベルリン交響楽団の首席指揮者などを歴任しています。もともとホルン奏者だった彼は,管楽器がたっぷり活躍するミヨーがお好みだったんでしょう。最終的には堂々たる箱盤になってしまい,挙げ句は2000年にカンヌ・クラシック賞の第一等賞をもらっちゃいました。室内楽団だから仕方ない面はあるものの,彼のミヨーはややオケの厚みが不足気味で,肝心の管部も時折調子っ外れだったりと,プラッソンからの見劣り感は否めず。受賞は全部採録した音盤書誌学的営為に対する論功行賞を多分に含んでのものだったんでしょう。こういう録音に,細かい演奏のアラをあ〜だこ〜だ言うのは無粋というもので,まずは(金太郎飴なミヨーを,とにかく全部録るという酔狂に)参加することこそ意義がある。個人的に最高傑作ではないかと思われる六番と,演奏機会が極端に少ない五番を一度に聴けた僥倖だけで,個人的には満足することにしました。★★★★
Gabriel Dupont "Poème pour Piano et Cordes / La Maison dans les Dunes" (Timpani : 1C1072)
Quatuor Louvigny : François Kerdoncuff (p)
近代に優しい会社の代表格ともいえるタンパニからは,浮かばれない作曲家デュポンのCDも二枚出まして,一枚は歌曲全集,もう一枚がこの器楽・室内楽選でした。薄幸の人生がどことなくルクーや滝廉太郎とダブってしまう作曲者のイメージそのまま,悲壮感と蒼白い激情が第一楽章に充満する『詩曲』は,1911年と最晩年の作。ショパン風の経過音をたっぷり含み,ルクーさながらの悲壮感漂うポスト・ロマン派主題。それでいて,装飾音や和声のそこここにドビュッシーの香りを含ませ,ルクーから一歩,近代へ前進。デュポン後年の美意識溢れる佳品です。これにピアノ曲の一大傑作『砂上の屋敷』がカップリングと,選曲は非常に素晴らしいこの作品,それだけに残念だったのは演奏陣でした。フレムの五重奏曲も出したルーヴィニュイ四重奏団は,さすが天下のルクセンブルク放送管団員。ロパルツで頑張っているストラスブルの四重奏団よりは格上の力感豊かな演奏で,個々の技量は高いです。ただ,何というんでしょうか,四人の合奏団体としては,音色の面でもアーティキュレーションの面でも精度に今ひとつの不揃い感が残り,合奏として溶け合わないのが気になりますねえ。『詩曲』はユニゾンが多いので余計目立ちます。それに輪を掛けてがっかりなのが,以前ヴィエルヌの協奏曲でもピアノを弾いていたケルドンクフさん。随分音が汚くなってしまって。『詩曲』では強打が曲をヒステリーじみて聴かせてしまいますし,『砂上』の曲解釈は粗野の一語。慈しむような丁寧さで,思い入れたっぷりに惹いていたジロ女史とは天と地ほども落差が。これしか聴けなかった人の間には「ぷ〜の嘘つき!つまんね〜曲!」と思われた方も少なくないんじゃないでしょうか。う〜ん・・入手平易なタンパニが録れてくれたのは有難い・・けどこの演奏は迷惑=ありがた迷惑な録音,でしょうかねえ。★★★★
"Cinq Mélodies / Combat del Somni / Comptines (Mompou) Diades d'Amour / Haidé / Berceuses Catalanes / Trois Mélodies (Bonet)" (Maguelone : MAG 350.505XCD)
Laurence Monteyrol (sop) Narcis Bonet (p)
ピアノ曲以外のジャンルにスポットが当たることはまずないモンポウの歌曲を三編。芸術監督を務めるディディエ・アンリの見識をうかがわせるのが,1993年にひっそりとリリースされたこの録音です。知られざる三編は,それぞれ1976年,1942年,1926年の作。最晩年の『ヴァレリーの5つの詩』は,より明瞭な輪郭線に特徴づけられながらも,先の見えない和声進行と神秘性において,紛う方なきドビュッシー歌曲の影響下。童謡を思わせる初期の『子どもの韻詩』が,土臭さの中にあどけなさまでも感じさせるのとは大違い。格段に語法の深化を感じることができます。そんなモンポウ作品集に,伴奏者の特権で自作曲をねじ込んだナルシス・ボネットさんは,バルセロナ出身。「・・誰やお前?」と思いつつ耳にしましたところ,これが意外に悪くない。確かにちょっと構成力は弱く素人臭いんですけど,和声感は素敵で手すさびのレベルじゃありません。何でもフォンテヌブローのアメリカ音楽院で作曲を学び,作曲法科で一等。シカゴのコプリー財団から助成金も得たことがあるそうな。他ジャンルを聴いたら,どこかに掘り出し物が眠ってそうだと期待させるには充分な筆力です。いっぽう看板娘のモンテロール女史はパリ出身。パリ音楽院を出たのち,パリ国際歌唱コンクールで優勝した実力者らしいんですけど,声にはエグ味があり,お世辞にも美声とは言えない。経歴詐称?と疑いの念すら芽生えるほどです。声量や歌い回しの技術そのものは大変に高いので,恐らくお年が行ってしまわれたせいで声質がくたびれ,喉回りの筋力が衰えてしまったのでしょう。もう少し達者な歌手さんに歌ってもらっていたら,再評価に繋がる録音となったでしょうに・・。ちょっと勿体ない。★★★★
Walter Piston "String Quartet No.1, No.2, No.3" (Northeastern : NR 9001 CD)
The Portland String Quartet: Ronald Lantz, Stephen Kecskemethy (vln) Julia Adams (vla) Paul Ross (vc)
日本じゃ庶民が気軽にCD漁りをするようなご時世ではなかった時分にこんなものを作ってたなんて,さすが物欲大国!と妙なところで感心させられる本盤は1988年製。ピストンが5つ書いた弦楽四重奏のうち,初めの3品を併録しました。無調志向のクロマチックな鬱々感を目一杯に湛えたまま,凝った変拍子群の連なりの間を縫ってゴリゴリ邁進する急速調の筆致は,室内楽に於けるピストンのキャラを如実に反映。グロテスクに切迫した道化師の面持ちで凄むテレジン組と,アメリカ人らしくカッチリとした拍動で頭を抱えさせておいて,時折ピストンらしい煌びやかな和声をマゾヒスティックに添えて飴とする。好きな人は好きなんでしょうが,人当たりははっきり申し上げてかなり悪い。期せずして同じレーベルから出たブロッホの鬱々四重奏曲とキャラ的にはかなり被ってるんじゃないでしょうか。せいぜい第一番二楽章のアダージョなど,緩やかな楽章に聴ける意外な叙情性に新たな発見を求めるくらいしかできませんでした。それでも,ナクソス盤くらいしかないピストン室内楽集としては貴重盤。実際,本盤の美点は演奏でしょう。1969年に結団され,作曲家本人からも献呈を受けたことのある由緒正しいポートランド四重奏団。ハスキーで荒削りな印象も受けるんですけど,聴き手の心を鷲掴みにするような熱の籠もった力演は,このアンサンブルならではの美点。彼らのピストン録音を手にするのは二度目ですが,本盤もその傾向は変わりませんでした。すでにピストンの四重奏をご存じで,なおかつお好きな方であれば,お探しになる価値はあると思います。★★★★
Leonard Bernstein "Trio / Sonata for Clarinet and Piano / Three Meditations from Mass / Anniversaries for Piano / Touches" (Orfeo : C 326 931 A)
Neues Münchner Klaviertrio : Ulrich Wurlizer (cl)
今年,少々本業で触れる必要が出たため買った本盤。指揮者として圧倒的に高名ですが,『ウエスト・サイド物語』を書いた作曲家でもあることは良く知られています。しかし,真面目なクラシック作品となると,滅多に見向きもされないんじゃないでしょうか。冒頭『三重奏』は,ブラームス的な官僚気質のロマンティシズムを,簡素な主題の執拗な反復と,その戯画的転調・変形によって,ちょうどテレジン収容組風のゴツゴツした風合いへと読み替えたような筆致。色彩的でも人懐っこくもない,薄味の戯画頽廃音楽です。実は本盤の購入動機,続く『クラリネット・ソナタ』でして。その移調感覚と変拍子においてヒンデミットの影響下にあるとされるこの作品,分厚いピアノの和声に色濃くジャズの影響が。「グラシオーソ」は,彼岸のユダヤ人とはひと味異なる皮相浅薄さが,ティン・パン・アレイの喧噪を巧みに描出。他方「アンダンティーノ」ではミヨーとケクランの香りが,やや舌足らずな筆致のそこここに感じられ,成る程面白い。これを聴けただけでも買った甲斐がありました。併録された『アニバーサリー』はブルースも織り交ぜた軽めのピアノ小品集。師匠筋との対話を通じて,米国の作曲家が等しく悩むであろうルーツの問題と懸命に向き合う彼の健気さが感じられます。演奏するネウス・ミュンヘン・ピアノ三重奏団は,1991年にババリア地方音楽賞をもらったヘルマン・レフラーさんが,ババリア州立管団員二名と結成。クラのウルリヒさんはベルリン・フィルの団員さんとか。聴いたことない面々の割に,演奏は意外な良さ。少し細部に明晰さを欠くも,レベルは高いです。★★★★
Joseph Guy Ropartz "Trio en La Mineur / Trio à Cordes / Prélude, Marine et Chansons" (Timpani : 1C1118)
Sylvie Tournon (fl) Béatrice Huvenne (hrp) Alexis Galipérine, Laurent Causse (vln) Paul Fenton (vla) Cécilia Tsan, Jean de Spengler (vc) Jean-Louis Haguenauer (p)
タンパニよ・・見損なったよ。まさかお前まで・・「お前まで抱き合わせ販売するなんてえぇぇぇ!」と,のっけから殺意を呼び起こさずにはおかない本盤は,一見すると,以前別装で世に出た室内楽作品集の再発盤。ナンシー周辺のローカル演奏家集団が絡んでいたヤツです。にもかかわらず今回,弦楽四重奏曲1編だけを新録の『弦楽三重奏曲』へ差し替え!つまり「ロパルツオタのお前なら,1曲のためにでもゼニ貢ぐよな?」。骨の髄までむしり取る魂胆丸出しってことですうっき〜!これをモーヲタ商法と呼ばずして何と呼ぶ・・激怒しつつも,やっぱり買っちゃうこれ病気。これで三重奏曲が駄曲なら選外に放り込んでやろうかと思いましたが,こういうのに限って曲が良いのはB級の常。簡素なリフを変形・移調・装飾しながら展開されるロマン派主題が,村祭り的旋法性と仄かな近代和声で折半される。炭焼き爺さんの田舎情緒が実に好ましい。それだけに,シングルCD一枚にアルバム代金を支払ったような空虚感を抱えて聴く両端の三重奏と海画は,ご案内の通りの危なっかしいピッチと冴えない音色,B級プレイで落胆倍加。せっかくの佳品も喜び半減です。恐らく,棚ぼたで助成金が下りたか,意外に売れたかのいずれかの理由により,弦楽四重奏入りの方を慌てて回収。本盤を出して前のは無かったことにしようということでしょう。こ〜ゆう計画性のない制作スタッフは,中川彰晃と無人君でも経営しとれ!★★★★
Claude Debussy "Images pour Orchestre / La Boîte a Joujoux" (Denon : COCQ-83117)
Emmanuel Krivine (cond) Orchestre National de Lyon
発売当時,一枚三千円というべらぼうな高値で目が点になり,それにも増して『映像』と『おもちゃ箱』のカップリングで売り物にするエリカ様ぶりがあっしの反感を招いた,クリヴィヌのドビュッシー三部作。「ぜって〜中古でしか買わん」と素通りしていましたら,案の定というか言わんこっちゃないと申しますか,印象主義三部作を豪華に併録した第一集だけを残し,残る二作は市場から抹殺!いらい中古でも全く目にすることはなく,「ああ買っとくんだった・・」と反省しきりでした。やっとお目に掛かることができ,結局新品で買った愚かな私の数年を返してくれクリヴィヌ君。肝心の中身は,色々な意味で複雑だったあっしの心を,さらに複雑〜うな方向へと引きずり込んでいく仕上がり。確かに名作だった第一集でも,曲によっては装飾過多がやや目に付いたものの,彼は巧みな強弱表現と語尾の表情の豊かさでそれを相殺していました。しかし『映像』は,いわゆる印象主義的手法がゆえの滑らかさは乏しく,むしろスペイン情緒を気取るが故の明瞭な拍節構造によって特徴づけられている。打楽器,吹奏部のリズムに後ろから合いの手を入れる弦部が,タイトすぎるあまりに膨らみを失い,曲を窮屈にしてしまう「イベリア」,明瞭な意志を失って,シンコペーションが空疎に響く「ジーグ」・・クリヴィヌの最も得意とする曲げ延ばし芸が,凝った拍節構造を理詰めで音符変換することによって,初めて意味的連関をもたせることができる『映像』においては,全く逆の作用をもたらしてしまうことを,残酷にも露呈してしまった気がしますねえ。決して水準以下の演奏ではないのですが・・。全能の音楽神として,或いは彼に期待を掛けすぎたのかも知れません。★★★★



Other Discs

Edward Elgar "Piano Quintet in A Minor op.84 / String Quartet in E Minor op.83 / La Capricieuse op.17 / Serenade / Adieu" (Dutton : CDLX 7004)
Harriet Cohen, Nikita de Magaloff, Gerald Moore (p) Joseph Szigeti, Josef Hassid (vln) Stratton String Quartet
多分イギリス近代の作曲家の中ではホルスト,ヴォーン=ウィリアムスと並んで知名度トップクラスなこのお方。しかし,他の二人が素敵な和声を散りばめ,モーダルな音使いもしてくださるのに比べ,この人ときたらお顔立ちそのまま,頑固一徹保守ロマン派止まり。二三度試しては玉砕するうち,だんだん聴かなくなってしまいました。本盤はヨーゼフ・シゲティ,ニキタ・マガロフの両御大が演奏陣に名を連ねる室内楽選。管弦楽(特に威風堂々)が有名な人だけに,室内楽は成る程未聴だと思い直し,いま一度お付き合いすることにした次第です。一聴やはり和声古臭く,メンデルの法則シューマンの法則見事に適用。『ピアノ四重奏』第二楽章や,『弦楽四重奏』第一楽章のいかにもお上品な色気は,ドイツ・ロマン派のそれに比べていかにも英国らしい感傷性を感じさせ,この人が『愛の挨拶』の書き手だったことを今更ながらに想起させる。ああ,こういう叙情の萌芽から,のちの英国近代が花咲くのだなあ・・と思えば,納得できないこともない楽曲群には違いありません。最晩年のエルガーに可愛がられたハリエット・コーエンさんも登場する録音は,いわゆる歴史的音源。ジリパチ音こそないもののいかにも古く,よほど良い音響機器で聴かない限りモコモコで話にならんでしょう。後半に集められた軽音楽風の小品もアンコール御用達でゲンナリ。それもこれも,もうちっと和声フェチに優しい曲だったら許せたのになあ,と溜息ばかりの散財となりました。★★★★
"Salut D'Amour (Elgar) Les Saisons (Desportes) Kinderszenen (Schumann) Clarinet Polka (Trad.)" (Jeys Music : JMCC-20208)
Quattro Ance: 奥田英之, 田中香, 上田奈緒, 松田康治 (cl)
クァトロ・アンチェは,2005年に洗足,桐朋,東京音大出身のクラリネット吹き4人で編成されたアンサンブル。千葉県出身繋がりだそうです。構成員のお一人と懇意にさせてもらい,それが縁で拝領した本盤は,2007年に自主制作で作られたオムニバスCD。三曲はいわゆる有名曲のクラ四重奏版アレンジもので,近代の耳で趣を感じるところは殆どない一方,管見の限り他に録音のないデポルト『四季』の採録が醸し出す巨大な場違い感に思わず涙。録音の採算性と構成員の力関係のなかで,演奏者としての矜持や良心とギリギリのところで折り合った結果なのでしょう。擬古典的な趣にプーランクやミヨの色を処方するデポルトの筆致は,軽妙なパリジャン気質。似たところを探すなら,エマニュエルの『三重奏曲』か。一昔前のサロン音楽家(ペサール界隈)に,六人組穏健派の和声を乗せた感じといっても良い。もし貴殿が,デポルト一品のために残る三編も我慢できるなら,本盤は貴重な資料となるでしょう。音色の痩せ,音符の消滅や跳躍の乱れなど,細かい難点は確かにありましょうが,演奏は総じて良好。何より,裕福な大手すら採算を気にして取り組まない辺境漁りを,自主制作で頑張る姿勢に共感します。美味そうなジャケットは栗島さやかさんと仰る方のお手製。洒落てますねえ。恐らく当人のウェブ経由でないと入手は難しいでしょうが,彼らからすれば,まさにその販売ルートの脆弱さが悩みの種。双方に横たわる溝が埋まったら,近代音楽にとり今の何倍も幸福な世の中が訪れることでしょう。★★★☆
Max Reger "Introduktion, Passacaglia und Fuge, op.96 / Variationen und Fuge über ein Thema von Mozart, op.132a / Variationen und Fuge über ein Thema von Beethoven, op.86" (Jecklin Disco : JD 609-2)
Isabel und Jürg von Vintschger (pianos)
ガマガエルのようなご尊顔にコンプレックスを抱きつつ,その負の情念を作曲行為へと昇華したレーガーは,膨大な量の作品を書き残した御仁。いちおう時代区分ではドイツ・ロマン派爛熟期の重鎮みたいな位置づけになってる御仁ですが,その作品量といい,バロックみたいな特徴の乏しいリフがクドクド装飾変形されながら数分,場合によっては数十分続く作風といい,作曲者の煮え切らない偏執狂ぶりを伺わせるに十分。その女性下着コレクター的情念に,ストーカーを監視する探偵気分の面白みを覚える方でもない限り,ほとんど拷問じゃありますまいか。たった三曲で76分を超える本盤を前に,思わずこんな愚痴が口を衝いたとしても,ファンの皆さんどうか責めないでくだされ。この人はもう私向けの作曲家じゃないんだ,もう止めようとは思いつつ,「これ一枚で二台ピアノ曲が全集である」という言葉が主婦にとってのバーゲン品と同じ意味を持つあっしとしましては,ついついまた買ってしまうのでございます。演奏するヴィンシュガー夫妻は,スイスの旦那とポルトガルの細君のコンビ。ウイーン音楽院でブルノ・サイドホファーのお弟子さんとなったのが縁でご結婚された夫婦デュオです。旦那さんはウィーン音楽院をでたのち,1954年にヨゼフ・ペンバウアー賞で評価され,現代音楽のスペシャリストとして結構有名なんだそうで,1971年以降はチューリヒ音楽院で教鞭を執る教育者だとか。録音当時すでに50代だけに,打鍵は少し重いものの,あからさまなミスは少なく,門外漢のあっしも美品な気がするAの弱音は美麗。演奏技術はしっかりしていると思います。★★★☆








Recommends


David El-Malek "Talking Cure" (Cristal-Influence : XQBV-1003)
@Mr.T Akol hakavod BDEM Cles 5 lacs Dhamelech nimrod Etalking cure Fblues for Guillaume GNo.3 Hhalleluya Iand I love her
David El-Malek (ts, ss) Pierre De Bethmann (p, rhodes) Rémi Vignolo (b) Franck Agulhon (ds)
1961年デトロイト出身のリック・マーギッツァ。遙か海向こうのムタン兄弟に請われてカルテットに入り,吹き手として成熟の頂きに立ちながら,作編曲面で今一歩垢抜けしないがために二の足を踏んでいる。その足の間をすり抜けるように,9才年下の仏人エルマレクがかくも素敵な作品を作ってしまうとは,何たる皮肉。期せずして,シーンをリードするジャズメンが,こぞって艶めかしいトーンの滑らかトレーン主義者を迎えるようすは,フランスのお国柄を反映しているようで面白いです。彼にとってリーダー第三作となる本盤は,高域のハーモニクスとメカニカルな吹き上がりにブレッカーのダンディズムを漂わせつつも,マーギッツァと類同する優美な鳴管を織り交ぜて世界を作る彼の持ち味が,一日長を行く変拍子系の自作曲と相乗効果をあげた小傑作。リーダー自身のプレイも立派なものではありますが,アップテンポでは若干ダレる場面もあり,さながら出荷直前の青林檎。やはりここでも黒幕は,素知らぬ顔でコンピングしている,リーダーの雇用主さんでしょう。リーダーのもう一つの掛け持ちコンボでご一緒するトロティニョンに比べ技巧的には小粒にもかかわらず,やはりこの人の和声に対する感覚の鋭敏さはけた外れ。実際,演奏の格はトロティニョン側が上なのに,軽々肩を並べるものに変えてしまうわけです。ちなみに,本盤でもうひとつ最も面白かったのは,推薦の辞をかのマーク・ターナーが請われて書いていること。2000年代最初の5年間,欧州の若手に最も巨大な影響力をもたらした怪物は,やはりこの人だったということです。★★★★★
Scott Wendholt "What Goes Unsaid" (Double Time : DTRCD-164)
@times line Aher allure Btangled webs Cwhat goes unsaid Dbright moon Eseptember in the rain FB.G. Gblues on hold
Scott Wendholt (tp) Eric Alexander (ts) Anthony Wonsey (p) Dennis Irwin (b) Billy Drummond (ds)

最近でこそクリス・クロスにお株を奪われてしまった気もするダブル・タイム。しかし,レーベル社長のジェイミー・エーベルソルドは自身もジャズ演奏家。演奏クリニックを通じて築いた豊富な人脈と見識に裏打ちされた人選の妙で,世紀の変わり目ごろには仕立ての良いアルバムを量産するいいレーベルでした。1999年に出た本盤は,サド=メル楽団出身の新人だったスコット・ウェンドホルトのリーダー第5作。インディアナ大学の同期生であり,当時日の出の勢いだったエリック君とのバッピッシュな二管でフロントを固め,当時まだ無名だった若きウイントン・ケリーことアンソニー・ウォンジーをピアノに,リズム隊は,のちレザボアで化ける二名で締める。リーダーの縁故を辿ってのこととはいえ,よく考えられた人選といえましょう。やや滑舌の悪いデニス・アーヴィンのベースは,少しアンバランスかなという気もしますが,これはこれで,細身のリーダーに比して後ろが重くなりすぎないよう,細めのピアノと平衡感覚を保った人選なんでしょう。リーダーはケニー・ドーハムやブルー・ミッチェル,チェット・ベイカーなどの流れを汲むメロディックなラッパが身上。鳴管そのものは細身ながら,中低域から高域までスムーシーに吹け上がり,音色もすっきり素直で聴き心地は極めて良好。バップ基調のフレージングも淀みなく歌い,ヴァンガード・オーケストラでの豊富な経歴を反映している。冴えないジャケットとは裏腹の仕上げの良さに快哉を叫びました。★★★★☆
Enrico Pieranunzi feat. Massimo Urbani "Live at the Berlin Jazz Days '84" (YVP : 3122 CD)
@monologue 2 / introspection / all the things you are Athe mood is good Bif there is someone lovelier than you Cturn out the stars Dthe reason why Eautumn song Fsolar* Gwill you still be mine*
Enrico Pieranunzi (p) Enzo Pietropaoli (b) Fabrizio Sferra (ds) Massimo Urbani (as)*
イタリア・アルト界の寵児マッシモ・ウルバーニさんは,パーカーの素地にフィル・ウッズの扇情を折衷した熱っぽいブローで鮮烈な印象を残した名手。そんな彼がまだまだ勢いのあった1984年,当時スペース・ジャズ・トリオで時の人だったエンリコ御大と共演!・・これだけで好事家の購買意欲をそそらずにはおかない一枚がこれ。パーソネルもそれを最大の売り文句にしていることが明らかな本盤の紹介にあたっては,実際の共演が終わりのたった2曲しかないことを真っ先に触れておく必要があるでしょう。むしろ本盤の実体は,スペース・ジャズ・トリオの面々によりライブで再演された,同時期の隠れ小傑作『ニュー・ランズ』と見なすほうが正確。僅か8曲(トリオでは6曲)の演目中,3曲が被ってます。「何だ,羊頭狗肉かよ」,がっかりなさった皆さんちょっと待った!それでも本盤,かつてはファンが血眼になって探し求めた,スペース・ジャズ・トリオ黎明期の復刻ライブ盤として,存在価値は些かも揺るぎません。カラヤン御用達の会場を一夜独り占めにする栄誉は,年若いエンリコさんの意欲を駆り立て,ハード・エッジかつソリッドなその打鍵は,場の空気をピリピリ支配する。足を引っ張り気味な脇も本盤では奮闘。高名なスタジオ盤よりも密度濃い。どういうわけか録音も,当時としては破格に良く録れており,ただただ快哉。原盤は長らく廃盤になっていたエンヤのLPで,Gは未発表音源だそうな。こんなもんを探し当ててくるYVP社長ヨーク・プリトヴィッツさん,やはり並みの博識じゃないです。★★★★☆
Bill Bruford "One of a Kind" (EG-Winterfold : BBWF 004 CD)
@hell's bells Aone of a kind part 1 Bone of a kind part 2 Ctravels with myself Dfainting in coils Efive G Fthe abingdon chasp Gforever until sunday Hthe Sahara of snow part 1 Ithe Sahara of snow part 2 Jmanacles
Bill Bruford (ds) Dave Stewart (key) Allan Holdsworth (g) Jeff Berlin (b) Eddie Jobson (e-vln)
ビル・ブルフォードといえば,イエスでの活躍が印象に残る太鼓屋さんにして,UKプログレの代表格キング・クリムゾンからナショヘル,ジェネシスまでを渡り歩いた斯界の大御所。カタカタしたスネアドラムが耳に残る軽めのドラマーながら滅法変拍子好きなおじさんです。1986年以降は【アースワークス】なる,ほとんどジャズ・ユニットの頭に収まってしまい,往時の創造性は影を潜めちゃったなあとの印象を禁じ得ませんけれど,それでも元気に境界音楽を演奏してるようですねえ。本盤は彼が1979年に作った二枚目のリーダー作で,一応はユニット【ブルフォード】名義の処女作品。たった4人のおっさんが作ったとはとても思えぬ変幻自在の音絵巻を前に,プログレ好きが長く神盤扱いなのも納得します。カンタベリーの雄デイヴ・スチュワートが持ち込むジャズ臭と,他の三名が組んず解れつ繰り出す変拍子ロック・ビートの洪水が,ほぼ理想的な形でブレンドされ,きびきびとソリッドな近未来ジャズ・ロックを形作っているのではないでしょうか。意外にもホールズワースはグループ演奏に徹し,個人技は控えめに披露している印象。むしろベースの無名人ジェフ・バーリンの元気の良さにびっくり。ハイ・テンポの変拍子チューンEでてんこ盛りされるスラッピングの山や,ジャコパス大活躍の「ティーン・タウン」がフラッシュバックするFでのソリッドな演奏は,ジャズ界の腕利きさんに比べ少しばかり歩幅小さめながら他のビッグネームと充分対等。ホールズワースの歪みギターと相俟って,のちのトライバルテック界隈に与えた影響の大きさをまざまざと物語ります。★★★★☆
Jimmy Greene "Gifts and Givers" (Criss Cross : Criss 1295 CD)
@Mr.McLean AGreene blues Bforever CMagnolia triangle D26-2 Eblue bossa / Boudreaux Feternal triangle
Jimmy Greene (ts,ss) Marcus Strickland (ts) Mike Moreno (g) Danny Grissett (p, rhodes) Reubern Rogers (b) Eric Harland (ds)
間に一枚挟むとはいえ,『フォーエヴァー』でワンホーンを通過して,次は同業者と2ホーン。おまけにその相手に,よりジョーヘン度の高い信者仲間のストリックランド君を名指しする。似たもの同士とやってもキャラが立つ自信がなければ,こうは行かないでしょう。実際,並べて聴くと,流れるように滑らかなフォルムで吹くマーカス君と武骨で骨太なグリーンは,違和感なく見事に棲み分け。「すっかり一人前だな〜」と感心することしきりでした。さらに,くすんだ音でベン・モンデールを気取るマイク・モレノのギターも進境著しく,注目株のピアノを押しのけて,作品の新主流派臭を決定づける活躍。昨日のペーペーがみんな成長し,薄れた新味を恰幅と安定感で悠々と相殺した快作といえましょう。欲をいえば,このご時世にたった7曲でアルバムを一枚。これってどうなんでしょ?それも自信の表れといえばそうなんでしょうが,自作はたったの2曲で,1曲は再演。後はそれほどアレンジに目を見張るものがあるわけでもないブローイング素材。選んだ7曲に精魂込めているとは思えません。マーカス君は作編曲面も含めたジョーヘン教徒。かたやグリーンも第二作ではかなり重度に新主流派していた過去もありました。せっかくこの二人がガチンコ対決したのに。2人で自作を書き合って,そっちのほうでも鎬を削れば,さらに面白いものになったかも知れない。それが少し残念ですかねえ。★★★★
Michel Herr "Intuition" (Igloo : IGL073)
@thinking of you Aintuition Babsence Cyour eyes Dlabyrinthe Ele voyage oublié Fpretext Gorange blossom Hnew holizons
Michel Herr (p, key) Hein Van de Geyn (b) Leroy Lowe (ds)
1949年ブリュッセル生まれと,そろそろ還暦も近いミシェル・ハーさん。1984年にトゥーツ・シールマンスと組んだコンボで知名度を獲得した彼が評価を確立したのは,恐らく1989年に出した本盤でしょう。トゥーツ・シールマンス繋がりで懇意となったオランダのハイン・ファン・デ・ゲインと豪華に組み,彼の書いたGを除いて全曲を自作。その年のベルギー批評家賞(サックス賞)に選ばれたほか,フランスのジャズ・ホット誌上で5つ星を獲得している。ということで本盤は,澤野商会の再発盤に聴けるソリッドなポスト・エヴァンス派というよりも,イヴァン・パデュアールのお師匠らしい甘美でおセンチなスタイルがメイン。弟子がそうするように,本盤も編成上はピアノ・トリオながら重度に電子鍵盤を援用して多重録音。その割合は全体の約半分に及びます。専科フュージョン屋さんのように洒落たシンセあしらいができないのは,ほとんど宿命。ねっとりした電子音の厚塗りが背景から浮いてしまう。端から作品を「作り込む」つもりのフュージョン屋と,あくまで即興演奏を膨らます効果を狙って電子楽器を使うジャズ専科では,元々キーボードに対する姿勢が違うんだから無理からぬ事です。となればあとは,残る半分のトリオ演奏のため,場違いなシンセ入り演奏も甘受できるかの問題。ここをクリアすれば,腰の硬い太鼓のバタバタ感が気になる以外は端正な欧州ピアノ。モナコ作曲賞を受賞したDを筆頭に自作曲は良く書けていますし,メロディアスなピアノも美麗。世評ほど素晴らしいかどうかには,確かに疑問も残ります。しかし元々本盤は演奏家としての彼よりも,作編曲センスを含む総合音楽家としての先を見たうえで評価を下されていたのでしょう。★★★★
Anders Aarum Trio "First Communication" (Jazzaway : JARCD021)
@peculiar ways of blending in Apartisan of unhealthy pleasures Buncle who Chymn for granny Dwhy be scared of a hat? Efirst communication Fthe importance of wearing a uniform Glet's put fun back in fundamentalism Hand then she left...
Anders Aarum (p) Ole Morten Hågen (b) Andreas Bye (ds)
リーダーは1974年モスに生まれ,1998年にシベリウス音楽院を出たノルウェイ人。卒業の2年後にデビュー作『ラッキー・ストライク』を発表し,北欧好きのごく一部の間で少しだけ名前が売れました。その後,ジャズモブなるソリッドな若手グループに入ってピアノを弾いていたのは知っていましたが,本人も2004年にレーベルとベースを換えた第二作『アブセンス・イン・マインド』を発表していたようで,随分音の傾向が変わったんだそうな。2006年に出た本盤は,再度リズム隊をごっそり換えてのリーダー第三作。音は極めて乾燥肌で淡泊な北欧ピアノ。左手の宛てを抑え,唸り声を織り交ぜたアブストラクトな右手の単音と隙間とでキースっぽい飄々感を作るスタイルです。エフェクトを控え,室内楽的ペーソスを大事にした『トゥディ』でのヤコブ・カールゾンの変貌に一脈通じるトリオ作になっており,クラシック・ジャズへの接近でオリジナリティを狙った初期とはなるほど,だいぶ毛並みが変わってしまいました。こういうスタイルを選択する場合,成否の鍵を握るのはサイドメンの伴奏で,本盤はこの人選において成功した模様。初リーダー作の二名よりも腰の据わった伴奏陣のお陰で,リーダーが安心して寄り掛かれている。もともと技量闊達な人ではないですから,無理がなくなった分,運指に余裕が出てタッチも丸くなり,良かったのではないでしょうか。ただ,表現は晦渋。半音階無調ウネウネ奏法を基調に展開される実験的アプローチは第二作からの新機軸らしく,本盤でも随所に顔を出します。正直感心するものは多くありませんが,アルバム自体はなお好内容なのではないかと思います。★★★★
Antonio Faraò "Encore" (Cam Jazz : CAMJ 7767-2)
@copello Aencore Bnow it's difference CI'm lost Dvera Ethree FDedé Ga double life and more HSylvie Inews from Europe JJapan
Antonio Faraò (p) Martin Giakonnovski (b) Dejan Terzic (ds)
かつて海向こうでの留学を口にしたところ,それを聞いたダニエル・ユメールに「留学?教えに行くのか?」と返されたほど早熟だったアントニオ・ファラオ。ケニー・カークランドの呪術性を昇華しつつゴリゴリ凄むピアノを武器にブレイクを果たしました。生活に余裕が出たのか,その後は演奏を特徴づけていた棘や毒気のようなものが徐々に抜けていくのを感じておりまして。相変わらず上手いとはいえ,一作ごとにその他大勢の欧州ピアノの一人へと埋没していく印象を禁じ得ませんでした。『ネクスト・ストーリーズ』に続き,澤野商会からCDが出るに及んで,「ああ,こりゃ駄目だ・・」と興味を失って新譜を手に取ることも無くなってしまい,2004年に出た本盤で,久しぶりに近況を仄聞した次第です。本盤を一言で形容するなら,裕福になった彼が,いっそうその棘をしまい込み,イタリア叙情派ピアノの美意識を推し進めた印象ですか。何しろ腕のいい人。それも充分様になり,ピエラヌンツィやキース(のヨーロピアン・ジャズ・カルテット風)の流れを汲む甘美さで,推薦できるレベルは軽々と超えていく。しかし,かつてのギラギラしたモード奏法の片鱗が覗くのは最早FとIの2曲だけ。そこで聴ける通り,左手の充てに個性が滲む彼のスタイルはそう変わっておりません。既往の持ち味を殺してまで徹するメロディックなピアノから,新境地と呼べるほどの新規性や成熟は感じられず。綺麗で腕が良ければ文句がない方には受け入れられるのでしょうが,ブラインド視聴でこれをアントン君と同定できる人は確実に減ったでしょう。高校教師で京本政樹が言ったあの台詞は至言です。「誰からも好かれるけれど,誰からも深く愛されないって事,あるでしょう?アイドル歌手みたいに」。★★★★
David Sylvian "Dead Bees on a Cake" (Virgin : 7243 8 47071 2 5)
@I surrender Adobro#1 Bmidnight sun Cthalhiem Dgod man Ealphabet angel FKrishna blue Gthe shining of things Hcafé Europa Ipollen path Jall of my mother's names Kwanderlust Lpraise Mdarkest dreaming
David Sylvian (vo, key, spl, g) Marc Ribot (g) Bill Frisell (dbro) Ryuichi Sakamoto, Tommy Barbarella (rhodes) Lawrence Feldman (fl) Steve Jansen (perc) Kenny Wheeler (flh) Chris Minh Doky, John Giblin (b) Ged Lynch (ds) Shree Maa, Ingrid Chavez (vo) Talvin Singh (tbla) et al.
理知的なポップスに掛けては,世界で最も多くの才能を輩出する彼の国においても,音のキャラが立ってる度ではトップ・クラスなデヴィッド・シルヴィアン。ロクに売れてもいない彼のような人間が,悠々自適にご飯を食べていられる音楽環境は,うらやましいの一語です。本盤は,何と12年ぶりの発表でファンを驚喜させた1999年作。ループドラムとシンセに上物ちょっとのシンプルな編成で,曲構造そのものは簡素。むしろ手抜き感すら漂う。にもかかわらず,最小限にコラージュされた弦や民族楽器音,ローズの響き合いから生み落とされる深い内省性は,たちどころに曲を聴けるものへと変えてしまう。怖ろしく長けた雰囲気作りの才には,感嘆の一語しかありません。新機軸と呼べるのは,ビル・フリーゼルやタルヴィン・シンの手を借りたインド音楽の風味付けと,いつにも増して高いジャズ度。上物の醸し出す思索的メロウネスが,神秘趣味の曇天に一筋の陽光を射し込む。結婚して子をもうけたことが,シニカルで自己否定的だった彼の人生に,少なからず肯定的な作用をもたらしている。要は歳を取ったということでしょう。メロウな分かりやすさは評価を分けそうですが,ピリピリと緊張感に満ちた『ポップ・ソング』の彼にはない暖かな寛容の響きを,個人的には好ましく聴いた次第です。★★★★
Rick Margitza "Memento" (Palmetto : PM-2076)
@touch Ablue for Lou Bwitches Cspin Dmemento Emy truck broke Fkiss and tell Gunembraceable Hpoints to ponder
Rick Margitza (ts) Mulgrew Miller (p) Scott Solley (b) Brian Blade (ds)
晩年のマイルスを出発点に,一時はヤングライオンの一翼を担ったリーダーは,ブルーノートを離れると呪縛から解放されたのか,徐々にそのスタイルを変えてゆきました。とくにジェフ・ガードナーと組み始めた1990年代半ばからは,深い陰影と澄み切った音色,ふくよかなリップ・コントロールで,顔の見えるテナーマンへとみるみる成熟。1997年作『ゲーム・オブ・チャンス』からは,進境がはっきり音になって聞こえるようになりました。最近はムータン兄弟にベトマン君が組みついた仏最重量ジャズ・ユニット(リユニオン・カルテット)の一員にも抜擢。毎回彼の参加作はわくわくしながら手に取るんですけど,なぜかいつも今一歩の練り込みが足りないと申しますか,もう少し楽曲や脇役にも神経使ってねと申しますか,隔靴掻痒の感が拭えぬ録音が続いておりました。2001年に出たこのワン・ホーン作は,重鎮マルグリュー御大をピアノに,スコット・コリー,ブライアン・ブレイドという豪華なリズム隊を後ろに侍らせ,人選にはほぼ文句なし。あとはオリジナルさえちゃんと書けば満点クラスだろうと飛びついたのは申すまでもない。で,実際演奏も安定してはいるんですけど・・。どうもブレイドの太鼓とコリーのベース,及びリーダーの楽曲や鳴管との相性が良くない模様。ベースが膨らまずラファロ風に絡むため,ブレイドの多彩なオカズと相俟ってリズムがせせこましくなってしまい,どちらかというとゆったり隙間を作るほうが生きてくるリーダーの持ち味を壊してしまう。各人の個人技を三乗したほどには,ユニットしての効果は挙がっていないようで,少し勿体なかったですか。奥行き感の乏しい録音もやや汚い。悪い作品ではないだけに,しなくてもいい自爆をしてしまった感が残念。しぶとくあと一二枚,カルテットで吹き込みを続けて欲しいです。★★★★
Gustav Csik Trio "My Point of View" (Moju Music : 002)
@we are here A7+7+9-3 for Isabel BBillie's bounce Canthropology DI remember Clifford Ebossa biguine FDuke Ellington medley Gcaravan Hvery early
Gustav Csik (p) Reggie Johnson (b) Alvin Queen (ds)
リーダーのグスタフ・チックは1943年ハンガリー生まれのベテラン。ブダペストのミシュコイック音楽院を出たのち,エディ・ロックジョウ・デイヴィスやジョニー・グリフィン,ボビー・ダーハムの脇を固めて名を上げました。粗っぽいところもあるのですが,排気量はかなり大きめ。グリサンドやトレモロを目一杯使ったスタイルで,手数が多い。昔はさぞ達者だったろうと思わせる豪放な腕で弾きとばします。ご覧の通りバピッシュな楽曲が多く並んでいるものの,演奏から受ける印象はオスカー・ピーターソンの流れを汲む派手好きのピアノでしょうか。本家よりもテクニックが落ち,白人らしくモタリは少なく,ラインやグルーヴもパラパラと直線的。また,左手の充てにはテテやケニー・バロン周辺の臭いもあり,オスピーさんと並んでもう一方のルーツを成している。@冒頭に現れるアクセントは,バロンの隠れた秀作『スクラッチ』の表題曲から捻って拝借しているのが一目瞭然。彼なりの敬意の表明でもあるでしょう。鋭く潤いに欠ける東欧人特有の打鍵は好みが分かれるでしょうが,切符良く明朗で,分かりやすいピアノは好印象。大排気量による,B級臭が素直に出たトリオ作ではないかと思います。ちなみにチックさん,1998年に本盤をフランスで吹き込んだものの,管見の限りほかにリーダー録音はCD化されていない模様。若い頃はさぞ上手かったろうに・・勿体ないですねえ。★★★★
Ove Ingemarsson Quartet "New Blues" (Spice of Life : SOL SC-0004)
@new blues Awaltz for Vana Bthird star Cseems like yesterday Dresting in the shadow Esuccess failure Feasy Gsoftly as in a morning sunrise
Ove Ingemarsson (ts) Lars Jansson (p) Yasuhito Mori (b) Anders Kjellberg (ds)
先ごろ白血病が悪化し,惜しくも亡くなってしまったマイケル・ブレッカーは,トレーン奏法をお洒落でダンディなものに換え,みごとキャラとして立てることに成功した偉大な御仁。数名の熱烈な信奉者を生みましたが,蓋しそっくりさん度で世界のトップを走ってるのはこの人じゃないでしょうか。彼は数年前に,本盤と同じ様な顔触れ,同じ様な選曲で,スタジオ録音のカルテット盤を出したことがあり,曲がイモな反面,驚くほど高い演奏水準に刮目させられた記憶がありました。めでたく国内盤で紹介され,おめでとうと申し上げておきましょう。本作は2002年夏に彼が来日した際,南青山のジャズ・クラブ『ボディ&ソウル』で録音されたライブ盤。実況録音ということで,太鼓が狭い室内に反響し,リズム隊が重く沈んで聞こえるのは宿命ですが,これが端正ながら左手の動きの単調なヤンソンさんの扁平さを強調してしまい,くだんのスタジオ盤に比べると少し物足りなさが残るものになってしまいました。演奏自体のレベルはさすがに高く,相変わらず音色・フレージング・コントロールの隅々までブレッカー一途なインゲさんのブロウは微笑ましい。けれど,もしこのリズム隊がバイラーク・トリオに代わっていら,どんなにスゴイものが出来ただろうか・・そう,あらぬことを思ってしまう,悪い意味での綺麗さ,不完全燃焼さが残る一枚でもありますねえ。★★★★
Tough Young Tenors "Alone Together" (Antilles : 422-848 767-2)
@jim dog Ajust you just me Byou go to my head CStevie Dthe breakthrough Ealone together Fask me now Gblues on the corner HChelsea bridge Icalvary Jthe eternal triangle
Walter Blanding Jr., James Carter, Herb Harris, Tim Warfield Jr., Todd Williams (ts) Marcus Roberts (p) Reginald Veal (b) Ben Riley (ds)
1991年に出た本盤は,近年めっきり数が減った漆黒テナー界で,当時エリート街道を登りつつあった5名の若手黒人テナーマンを並べて作られた企画作。標題に「タフ」が入り,白い人黄色い人がどこにも居ない人選。リズム隊に目を転ずれば,マーカス・ロバーツとレジナルド・ヴィール。勘の良い方はもうお気づきでしょう。そうでない方のためにもう少し補足しますと,本盤を遡ること4年前,リンカーン・センターにジャズの教程を創設した人物が本盤の黒幕(笑)。新時代のジャズ政治家として斯界に君臨するウイントンが,NYの檜舞台に立ち上げた黒人ジャズ・エリート養成塾。その最初の収穫祭が本盤というわけです。1990年といえば,御大がジャズの旧世界へ還ろうと最もあくせくしていた時期。当然ながらウイントニズムを標榜する若手諸兄は,伝統曲をずらりと揃えて師匠に追随。各人が一本で参加する間の数曲に比べ,複数名参加の楽曲や,冒頭と掉尾の全員参加曲では,俺こそ黒さナンバーワンの意地が,若気に煽られて前面放出。全員が代わる代わるソロをリレーする@では,本家ボス・テナーへの負けん気が前面に出てか,全員ダート・トーンてんこ盛りで吠えまくる様子が何ともカワイイですし,フレージングの組み立てが曲に追いつけず,ちょこちょこ破綻気味に推移してしまうAや,バラードで時折ヨレるFの様子はいかにも若く,気恥ずかしさを禁じ得ないといえば嘘になりましょう。それでも,恩師への一途な想いが一杯の中身は充分に好内容と思います。しかし,「タフ」と言っても現代はこの程度ですか。やっぱり往時のボス勢の漆黒ぶりは半端じゃなかったんですねえ。★★★☆



Other Discs

Matt Savage Trio "Quantum Leap" (Savage : SAV0007)
@give me a break Acough potato blues Blullaby of Birdland Cserenity Dfree and easy Ecuracao Fa child is born Gwobble waltz Hcloser than you think Iall the things you are Jflights of fancy Kdreaming of you Lhide and seek Mblues in 33/8 NMonk's dream
Matt Savage (p) John Funkhouser (b) Steve Silverstein (ds)
「年齢で弾けるほど,ジャズは甘くない」。そんなキャッチコピーで登場したセルジオ・サルヴァドール君は象徴的でしたが,およそジャズ界で早熟の天才ぶりを売りにした子タレにはロクなのがいた試しがありません。一部で「天才少年」との評判を仄聞して気にしていたこの少年,どうせ大したことないだろとは思いつつ,やっぱり買っちゃう資本主義の下僕,汝の名はぷ〜ならん。リーダーは1992年マサチューセッツ州サドバリー生まれ。自閉症(広汎性発達障害)を患いながらも,6才でピアノを習得し,8才でアビシャイ・コーエン,ジェフ・バラードのチック・コリア部隊を脇に従えて演奏したことがあるらしい元神童。12才で名門『バードランド』の舞台に立ち,ジミー・ヒースやクラーク・テリーと共演したらしいです。障害をもちながらも,それを刎ね退けて頑張る彼を酷評するのは非常に気が引けますけれど,プロである以上言い訳は無用。子供時代なら許されても,ティーンになってなおこのレベルの演奏を売り物にし,他盤と同じ土俵で購買者に買わせるのは犯罪でしょう。何よりも指の動きが素人同然。リズムの音型をまともに形作ることすらおぼつかない。モンクやニコルズ風味で誤魔化そうとしてるようですが,無理があり過ぎ。プロとしての評価以前の問題です。うっ・・これで書くことが無くなったぞ。どうしてくれようホトトギス。てなわけで,演奏家のライフヒストリーも考慮に入れ,大目に見てくれる心優しいリスナーの方にのみ推薦。「同じゼニ払うならクリスチャン・ジェイコブがいいな」。そんな煩悩がたちまち脳裏を駆けめぐる不埒な男ぷ〜向きのCDではなさそうです。★☆
Jarmo Savolainen Trio "John's Sons" (A-Records : AL 73152)
@John's sons Afloodgates Btea for two Cmetro Dpower EDb Fvoice behind the wall Gthe rift Hwarm autumn Iinky-pinky J7 brothers Kbottom Ldo I care? Manother story
Jarmo Savolainen (p) Uffe Krokfors (b) Markku Ounaskari (ds)
北欧ジャズと呼ぶには些か不似合いな,ゴリ感溢れる強面モード・ピアノを弾くサヴォライネンさん。ユッキス・ウォテラのリーダー作で彼を聴いて以来,見かけるたびにリーダー盤を買ってますけど,どういうわけか一度も,会心の当たりを放つ様子がない。瑕疵は全てウォレス・ルーニーやエリック・ブレイマンらサイドメンのせいにしてきた敬虔なヤモちゃん信者のあっしとしましては,キャリア初のトリオ作となる本1998年盤こそは,起死回生の快音を聴かせてくれるに違いない!そう期待一杯胸一杯で購入した次第。どうだいヤモちゃん?ファンの鑑だろ?こんな従順なファンのため,一枚くらいは飴くれたって好いんじゃないかい・・?そんな願いも完全無視!ヤ・ラ・レ・タ(死)。サヴォリやがったよこのヤロー・・。せっかくのトリオ録音の機会に,何を思ったか大半をフリー・フォーム!その名も「パワー」と題するぐちゃんこ弾きのDを筆頭に,リズムのみ崩壊のフリーAL,スタンダードも崩壊B,主題崩壊のGK,たった5音の反復で1曲作る詐欺まがいのJと,ある意味と〜ってもバラエティ豊か。鯨の啼き声がアルコで出てくるCに至っては「オオッ,きょうも麻原マンセー!」・・こちとら脳味噌崩壊寸前でございます。そうかと思えば田舎風のキース面したEみたいなのもあるしよ〜,中途半端なんだよ!うっき〜!と,ほとんど八つ当たりに近い怒りしか沸き上がってこないトリオ作でございますことよ。唯一の救いは北欧風の叙情が横溢するHと中盤ソリッドに盛り上がるIくらい・・って少なっ!かくもファンいびりの上手なヤモちゃんと分かっていてもお布施を捧げるマゾな信者にのみ推薦いたします♪★★☆
Sting "Sacred Love" (A&M : 060249805349)
@inside Asend your love Bwhenever I say your name Cdead man's rope Dnever coming home Estolen car Fforget about the future Gthis war Hthe book of my life Isacred love Jshape of my heart: live
Sting (vo, b, g key, trk-cl) Kipper (key, prog, vo) Dominic Miller, Vincent Amigo (g) Jason Rebello (p, rhodes) Manu Katche, Vincent Colauita (ds) Mary Blige, Joy Rose (vo) Anoushka Shankar (sitar) Jeff Young (org) Chris Botti (tp) Clark Gayton (tb) Chris McBride (b) Dave Harley (p) Aref Durvesh (tbla) Jacqueline Thomas (vc) Levon Minassian (darmuk) Valerie Denys (cstn) Choeur de Radio France et al.
創造性のピークはとうに過ぎている。『ソウル・ケージズ』以降の諸作を聴き,そう理解しているつもりではいても,あるとき,なだらかな下降線ががくっと一段大きく落ちるのを目の当たりにしますと,隣家の痴態を覗き見てしまったかのような気まずい思いに囚われてしまう。スティングの2003年作はまさにそれでした。一番の変化はリズム。手打ちも相当含んでいながら,全体にクラブ風の味付けになりました。お洒落なのかも知れませんが,これが拍動を窮屈にし,内省を徒に削いでしまい,どうにも効果的でない。もっと気の利いた処理ができるのを知っているがゆえ,安直な時流への迎合に響いてしまう。彼の変化を端的に表しているのは盤装。くるりと裏返すと,12曲中4曲に「フィーチャリング誰々」,「誰々リミックス」の釣書が踊ります。自分の世界観でご飯を食べていた人が,こんな姿勢をとるようになったらお終いでしょう。些か陳腐化しパターン化してきたとは申せ,英国北方の風景が音になる玄人芸は,なおそこここに存在。D以降の3曲は面目躍如。しかし,大半は過去の楽曲の再利用です。メアリー・ブライジを迎え,彼女の土俵(R&B)で相撲ととってしまうBは,自ら築き上げてきた音楽性と,隆盛を極めるストリート音楽との間で不器用に立ち回る彼の右顧左眄を物語ってもいる。最近ポリスを再結成した彼が,昔日のなかに生きる一人の中年男になったのでなければ良いのですが。かつての彼は,確固たる音楽的内観がまず存在し,それを描き出す道具として,全ての楽器音を「使いこなし」ていた。本盤を聴く限り,その内なる意志は大きく失われてしまったように思えてなりませんでした。★★☆
Ana Caram "The Other Side of Jobim" (Chesky : JD73)
@esperanca perdida Aolha Maria Bdemais CAna Luiza Dcorrenteza Esem voce Ffalando de amor Gsamba torto Heu te amo Icaminhos cruzados Jeu não existo sem voce
AnaCaram (vo, g) Steve Sacks (ss, fl) Erik Friedlander (vc) Matthew Dine (ob) David Finck (b) Jamey Haddad (perc) Sergio Assad (g)
ボサノヴァが好きな人の間では割と知名度もあるらしいアナ・カラン女史は,1958年サンパウロ生まれ。歌手とギターが本業ながらフルートも吹けるらしく,サンパウロ大学で作曲法と指揮法(!!)も勉強したインテリさんです。フィンランドを楽遊中のパキート・デリヴェラと邂逅。気に入られてキャリア・アップのきっかけを掴み,1980年にニューヨークへ。ここでのちチェスキー・レコーズの社長さんとなるノーマン・チェスキーさんと直談判して練習生となり,1987年に『アナ・カラン』でリーダー・デビュー。1986年にチェスキーさんがご兄弟とレーベルを立ち上げて以降は,そこからコンスタントにアルバムを発表するようになり,レーベルの看板娘として人気を博しました。本盤は1992年に発表された同レーベル第三作。標題の通りジョビン尽くしにもかかわらず,いわゆる定番曲ゼロ。愛想笑いで媚びを売らない表装そのまま硬派な姿勢が好感を抱かせる一枚です。歌唱力の上手い下手で語ること自体が野暮な気もするボサノヴァはそもそもコメントに馴染まず,自身をヴォーカルものの良い聴き手とは思えないあっしがそれを書くのもどうかとは思いますけれど,喉の細さと青臭さを相殺するだけの深みが足りない歌声は,素人耳にもまだまだ発酵不足。それでも,ギター二本のシンプルな伴奏でしっとりと語るIは肩の力が抜け,なかなかの趣をもって歌えている。のちの人気を予感させる好演と思います。★★★






脱稿:2008年2月19日 3:42:37

編集後記

最近,月報本体を書くよりも,
いい加減ネタの切れてきた
巻頭の狂歌を捻り出すほうに余程悩まされている。
力を入れるところ間違ってないか自分?

ちなみに
ジャズ好きの方のために補足しますと・・

この人がおハナちゃんですw







いつかこのネタが出ると思ってました(笑)

「“異常趣味”大学」じゃない!! 近畿大が英語表記の変更検討
近畿大学が英語表記をこれまでの「Kinki University」から「Kindai University」へ変更することを検討し始めた。近畿が英語で風変わりや異常趣味を意味する“Kinky (キンキー)”とほぼ同じ発音で、教員が海外で研究発表する際に笑いが漏れるなど大学の威厳が損なわれかねないためだ。しかし「異常趣味」と「大学」の組み合わせの面白さから、近大Tシャツが欲しいと海外から問い合わせがあるなど、思わぬニーズも浮上している。

 「友達に『Kinki University で働く』と伝えると『ナイスジョーク』と笑われた」というのは近大英語学習スペースのスタッフで、オーストラリア出身のマシュー・ソーントンさん(34)。

 また、海外のシンポジウムなどで研究発表や研究者と交流を行う教員らは、大学名を名乗ると笑いをこらえられたり、驚いた顔をされることが多々あるという。近大関係者によると、「呼び方で工夫しようと、近と畿の間に時間をあけて話しても、笑われてしまう」。

 英語の名称変更は、以前から意見としてはあがっていたが、国際化が進む今、真剣な議題になってきたという。

 しかし、「Kinki Univ」は意外な人気を呼んでいる。英語のつづりは違うものの、誤解して面白がる海外の若者から大学名入りTシャツが引っ張りだこなのだ。

 近大生から近大職員となったアテネ五輪競泳バタフライ200メートル銀メダリスト、山本貴司選手は、海外遠征で大学名入りTシャツを着ていると、外国人選手から交換してくれと毎回のように頼まれるという。

 また、左胸に「KINKI UNIVERSITY」と書かれたオリジナルTシャツを送ってほしい、と海外から近大にメールが寄せられることも。米人気歌手、ビヨンセのバックバンドでベースを担当している女性から「世界ツアーで近大Tシャツを着たいので送ってほしい」と問い合わせもあったという。

 近大関係者は「大阪の大学なので笑ってもらえるネタにはなるが、一瞬でもおかしな大学と思われるのはうれしくない」と話している。

近畿大学より悲惨なのは,
どう考えても KinKi Kids だと思います。






良いニュースです。
悪名高いJASR@Cに,思わぬ所から処刑宣告
ひょっとすると,ひょっとするかも知れない。

Last.fm 「音楽を解き放て」
数日前に報道関係者に謎めいた招待状を送ったあと、
我々は、噂や推測がそこらに飛び交うのを楽しんでみていたのですが、
そろそろお伝えしてもいいでしょう。

本日をもってLast.fm では、トラックの長さ制限がなくなり、
アルバムまるごと無料で再生できるようになります

どんな曲でも無料で聴きたいという我々の、そしてリスナーたちの積年の願いがついに実現しました。

これはEMI, Sony BMG, Universal, Warner,そこに所属するアーティストたち、
そして無数の独立アーティストとレーベルの協力のおかげです。
我々は、世界最大の合法的な音楽コレクションを、無料で提供できることになりました。
長さ制限の撤廃はリスナーだけでなく、アーティストとレーベルにとっても朗報になるでしょう。

アーティストたちには、再生のたびにお金が入ります。
Last.fm に置かれた音楽は永久にお金を産み続けます。
これにより、人気のあるアーティストほど、多くのお金を手にできるようになります。

我々はアーティストに直接支払います。
我々はすでにいくつもの権利団体からの許諾を受けていますが、これからは楽曲が再生されるたび、独立アーティストが直接にお金を手にできます。

これにより公平な競争が可能になり、あなたも音楽を作り、アップロードして、収入を得ることができるのです。音楽を作れる人はこちらへどうぞ。参加は無料です

お金がいったいどこから出てくるのかというと…

広告収入の一部をアーティストとレーベルに支払う―これがビジネスモデルです。
我々は音楽の経済を再設計します。近年、音楽の経済は再設計されつつあります。

Last.fmにはすでに数百万のトラックが再生可能な状態にあり、日々追加されていきます。
世界のすべての人々にこれを届けるべく、これからも頑張ります。

(原文英語:Free the Music 日本語の訳出は:はてな匿名ダイアリーさん)

このシステムが軌道に乗ったら,日本最大の著作権ゴロの
唱える大義名分は,消滅することになるわけです。
気になるのは,盤装も含めた嗜好品としてCDを捉えている人も
少なくないであろうジャズやクラシックの人が,
すんなり,このシステムに馴染むのかという点ですが・・
その考えがJASR@Cを肥え太らせる結果にしかならないとしたら・・
方針を,変えてしまう人は少なくないでしょう。

それ以前に,これが商用ベースにきちんと乗ったら
所有欲などは些末な問題でしかなくなってしまうでしょう。
何せ,財力ゼロのマイナー演奏家でも,
図書館や古書店を巡り,無名作家の楽譜さえ見つけてくれば
簡単に世界初録音が作れてしまうのだから。
盤装なんかよりも,世界初録音三昧のほうが遙かに魅力的だ。

残る問題は,鯖の運営費を誰が払うか・・ですか。
愉快犯的悪戯投稿や,著作権侵害の投稿をどう防ぐか,
要は『グレシャムの法則』現象からどう逃れるかも大事ですね。
その辺は大丈夫,なのかな?



来月から,仕事場が変わることになりました。
駅の真ん前,全面ガラス張りのオフィスビル!
その最上階に,どどーんと部屋を頂くことになりました。
見晴らし最高です。すげ〜!
でも引っ越し超めんどくさい・・。

それではまた次号,
しぃゆうあげぃん。

ぷ〜れん敬白 

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